F&Aレポート

コミュニケーションがうまくいかないのはなぜ? 共通のイメージ(同感)と個別のイメージ(共感)

コミュニケーションがうまくいかないのはなぜ?
共通のイメージ(同感)と個別のイメージ(共感)

 「猫」と聞いて、「猫」の姿をイメージするのは共通のイメージ(同感)です。しかし、その「猫」を「可愛いペット」と感じているのか、「汚い野良猫」と感じているのかは個人によって違います。このように、コミュニケーションには共通のイメージと個別イメージがあります。相手が感じている「個別イメージ」を受け取ることが、ストレスのないコミュニケーションの秘訣です。個別のイメージのちがいは、言語や非言語によって埋めていくしかありません。(アサーション・トレーニング 深く聴くための本 森川早苗著)

1、同感と共感のちがい
 話し手の話の内容を解釈したり、早わかりしたりしようとすると「あ、わかった、わかった」「私と同じ!」になります。それが、同感とか「わかったつもり」になるということです。この「わかった」というのは、共通のイメージの部分でわかったということです。
 それに対して「共感」というものは、相手の個別のイメージの世界をわかって、「この人がこういう状況の中で、こんなことを思いながら過ごしていたら、こんな気持ちになるんだろうな」と「わかる」ことです。ここで注意したいのは、「私が、こんな状況になったら、こんな気持ちになる」と、思うのとは違います。
 「あなたはそう感じるんだね」「そうか、それだったらそう感じるだろうな」とわかるということです。自分だったらどうするか、自分の感じ方はどうなのかというのは、脇において、「この人は」どうだったのかと、その人の世界を分かろうとすることが大切です。このような共感的理解をして「あなたの言わんとするところは、こう理解したが、それでいいかな」と返したら、相手は「わかってくれた」と感じます。「私も一緒。そうそう、私も同じ」という同感ではなくて「共感する」ということを目指せばいいということです。

2、言葉の奥に心がある
 コミュニケーションが難しいのは、言葉の表現やイメージにはさまざまなものがあり、それが伝える人、聴く人それぞれによって異なるからです。
 こんな話があります。母親の留守が寂しいから泣いている子どものもとに、母親が帰ってきました。さっきまでは寂しくて泣いていたのですが、母親の顔を見てほっと安堵し、より強く子どもは泣き始めました。そうすると、母親は「泣かないの!」と子どもを叱りました。子どもは今度は叱られたことが悲しくて、泣き続けます。泣き止まないので母親は「泣き虫!」といって一層強く叱ります。子どもは、今度は「泣き虫」と言われたことが悔しくて泣き止みません。
 同じように泣いていても、その感情(気持ち)は刻々と変わることがあるという例です。
 私たちは「泣く」とか「嘘をついた」などの言動を良い、悪いで判断して「泣くな」とか「嘘をつくな」などと対応しがちです。しかし、外側に見える状態と心の中で起こっていることはずいぶん違う可能性があります。そういう視点をもって人と関わろうとしないと、さまざまなことを見過ごしてしまい、すれ違ってしまいます。
 なぜそんなことをしたのか、どういう気持ちなのかを分かろうとすることは簡単なことではありません。人は皆異なった経験をして生きてきているし、異なる表現をしてきた存在です。表現の奥の部分にはいろいろな感情があるということがわかっていると、表面に表れたものに惑わされず、その人の心を感じ取ることができるかもしれません。
 「聴く」ということは、頭だけでなく、心を感じ取るアンテナのようなものが必要になると言えるでしょう。
 反抗期の子どもは、表面では悪ぶっているけれど、心の中は「寂しい」のかもしれません。反抗的な態度は「助けて」というサインかもしれません。また、怒鳴り散らしている人の心の中は、実は不安でたまらないのかもしれません。自他ともに心地のいいコミュニケーション(アサーション)は、そういう心で起きていることを、なるべく正直に率直に伝えることを目指そうとしています。なぜなら相手には心の中で思っていることは見えないので、自分で伝える努力をしましょうということなのです。人は表面で見えていることと心の中は違っていることがあるということです。
 言葉には限界があり、表現できない気持ち、思いがあることを知って聴くことで、相手を受け止めることができ、心を感じることができるかもしれません。