F&Aレポート

交渉を有利にすすめる「バトナ」1

交渉を有利にすすめる「バトナ」1

■ 子どもがお母さんに「お小遣いの値上げ」を要求するのも、兄弟でおやつを分け合うのも交渉。ランチをどこで食べるか、週末のデートを決めるのも交渉だし、ビジネスで取引の条件を決めるのも、もちろん交渉。こうしてみると、私たちの仕事や生活は交渉で溢れている。
■ また、交渉を終えても、交渉相手との関係はその後も続く場合がほとんどである。そう考えると、「取れるだけ取ればいい」ということではなく、お互いの利害を調整し、どこに落としどころをつけていくかがポイントになる。
■ 交渉のためのビジネス本は数多あるが、「バトナ」という考え方を知っているだけでも、交渉の見方が変わり、交渉を有利に進めることができるかもしれない。なぜなら交渉は、言葉のバトルではなく、緻密に準備された思考そのものだからだ。(参考図書:武器としての交渉思考 瀧本哲史著

1.交渉は「相手の利害に焦点をあてる」
 「相手に対して真正面に座ると対決的な意思表示になる」「書類を相手側に置いた方が意見が通りやすい」などのテクニックは交渉の一部でしかない。交渉とは「立場が異なる二者が合意を目指してやりとりするコミュニケーション」である。意思決定権は自分だけでなく相手側にもある。
 「私の立場もわかってくださいよ~、なんとかお願いしますよ~」というのは駄々をこねる子どもと同じで交渉ではない。「それは大変ですね」で終わっても仕方ない。
 それよりも「あなたがこうすると得をします。だから○○はどうでしょうか」という提案をするのが交渉である。自分の都合をいかに相手に押し付けるかではなく、相手側のメリットを実現し、その上で自分もメリットを得られるようにするのである。

2.バトナ(Best Alternative to a Negotiated Agreement)
<ちょっと考えてみよう>あなたは昨年買った、ルイ・ヴィトンのバッグをリサイクルショップに売ろうと考えています。できるだけ高く売りたいと考えています。そこで近所のリサイクルショップM店に行ったら「8万円なら買い取りますよ」と言われました。さて、あなたが次にとるべき行動は?
 こんなことは日常でもよくあることだが、次にあなたが取るべき行動は比較対照をするための選択肢を得ることである。他のリサイクルショップで打診するとか、ネットオークションを調べてみるとかである。
 交渉において一番初めにやらなければならないことは「複数の選択肢を持つ」ということである。この場合、近所のリサイクルショップM店に行っただけでは選択肢がないので、8万円で売るか、売らないかの二者択一しかない。他の店に行ってはじめてより良い選択肢が出てきて「選ぶ自由」が生まれるのだ。
 「バトナ」とは、「相手の提案に合意する以外の選択肢の中で一番良いもの」という意味になる。この場合、最初のM店では8万円の値段。もし次のY店が7万円、Z店が9万円という値段ならバトナは「Z店で9万円で売る」ということになる。
 つまりバトナとは、目の前の交渉相手と合意する以外にいくつかの選択肢があったときに交渉相手に「私はあなたと合意しなくても別の良い選択肢があるので、それよりも良い条件でなければ合意しない」と宣言できる他の選択肢ということになる。
 バトナとして良いものがあれば、目の前の人と必ずしも合意する必要はないので、交渉上、強い立場になれる。

3.交渉が決裂したときに相手がどうなるかを考える
 相手がどんなバトナを持っているか。相手が自分と合意しなければ何が起こるのか。うちと組む以外にどんな選択肢があるのか。そういったことを論理的に考えていくことで、相手側の選択肢を分析することができる。分析ができたら、次にその結果を相手にぶつける「あなたはこちらの提案に乗らなかった場合、こういう選択肢がありますね、しかし、私の提案のほうがあなたにとっては有利ですよ」と提示してみるのだ。それが「バトナの提示」となる。相手にとってそのバトナが正しければ「その通りです」と合意にいたる確率が高まるが、そうでなければ「いいえ、こういう道があるんです」と、新たな情報を入手することができる。このように「いかに多くの情報を集めることができるか」が交渉の勝負を決めるのである。