F&Aレポート

敬語の車間距離

敬語の車間距離

話し手の相手に対する敬意が表れる敬語。その敬語には二つのはたらきがあります。
一つは「尊敬の度合い」。もう一つは、お互いの「距離」を示すということです。親しい間柄なのか、疎遠なのか、相手をどう感じているかということを示すはたらきがあります。今回は敬語の「距離感」について考えてみましょう。

「元気?」「お元気?」「お元気でいらっしゃいますか?」
(1)元気?
(2)元気?
(3)元気ですか
(4)元気でいらっしゃいますか
(5)元気でいらっしゃることと存じ ます

(1)には、敬語がありません。(2)以下は一つずつ敬語が増えていき、(5)には四つも敬語が含まれています。「お・です・ます」は丁寧語。「いらっしゃる」は尊敬語。「存じ」は謙譲語です。
 目隠しをしているあなたに、「元気?」と声をかけられたら、あなたはかなり親しい人(距離が違い人)だと感じるでしょう。「お元気?」だと、あなたとの距離は「元気?」よりも少し離れます。「お元気ですか?」だと、もっと遠くなり、「お元気でいらっしゃいますか?」では、かなりの距離を感じるはずです。「お元気でいらっしゃることと存じます」だと、手紙の距離になってしまいますね。敬語が増えれば増えるほど、距離感が大きくなるのです。
 つまり敬語には、「尊敬の度合い」と「距離」を表す二つの要素が含まれるのです。そしてこれこそが、敬語のさじ加減の難しい点でもあります。
 スピードに合わせて、適度な車間距離を保ちながら走るには多少の技術が必要なように、敬語の使い方も通り一遍ではなく、相手との距離を確実に捉えて適当な敬語表現をするには、知識と意識が必要です。この距離感を意識して衝突しないようにしたいものですね。