文化庁による令和6年度「国語に関する世論調査」は、全国16歳以上6,000人を対象に実施され、有効回答は3,498人でした。言葉遣い、敬語、SNSとコミュニケーション、外来語、新しい言葉などの調査項目がありました。
「敬語」は古いテーマではなく、組織の関係性を整える道具
「敬語は必要だと思う」「ある程度必要だと思う」を合わせると94.9%。その理由として最も多かったのは「相手を尊敬する気持ちを表せるから」73.2%。「表現がやわらかく、人間関係を円滑にすることができるから」59.3%となっています。
敬語を「上下関係を示すためだけのもの」と、捉えている人ばかりではないことがわかります。むしろ、相手への敬意を表し、人間関係を円滑にするコミュニケーションの手段として理解されています。
これは、これからの人的資本経営にもつながります。
役職や年齢による上下関係だけではなく、互いを尊重しながら意見を交わす組織をつくるには、「相手を尊敬する言葉」が必要になります。
実際、会社で仕事が終わったとき、職階が上の人に対して「お疲れ様でした」という人は77.1%。職階が下の人に対しても71.2%です。
言葉遣いは、一見すると小さな問題に見えますが、日々の小さな言葉の積み重ねが、「この職場では大切に扱われている」「自分の存在を認めてもらえている」という感覚を生み出します。言葉は、エンゲージメントを支える見えないインフラでもあります。
「役不足」「潮時」に見る、注意すべき『認識のズレ』
さらに興味深いのが、言葉の意味の変化です。たとえば「役不足」。
本来の意味とされる「本人の力量に対して役目が軽すぎること」を選んだ人は48.9%。「本人の力量に対して役目が重すぎること」を選んだ人も45.1%と、ほぼ拮抗。
また「潮時」は、本来の意味である「ちょうどいい時期」が41.9%に対し、「ものごとの終わり」が46.7%となりました。
つまり、「正しい言葉でも、相手が同じ意味で受け取るとは限らない」ということです。たとえば、経営者が「彼には役不足だ」と、言ったとき、それを「もっと重要な仕事を任せられる人材」という意味で使ったとしても、聞いた側が「能力不足ということか」と受け取れば、評価や人事への不信につながりかねません。
また、「そろそろ潮時だ」という言葉も、「ちょうどよい時期」という意味なのか、「終わり」という意味なのかによって、受け手の印象は全く違います。
コミュニケーションのリスクは、「言葉を知らない」ことだけではなく、「同じ言葉を違う意味で理解している」ことにもあります。
「伝達」から「理解」へ〜「言葉を大切にする会社」は、人を大切にする会社
これらは、単純に日本語が「乱れている」ということではなく、日本語が社会の変化に合わせて猛烈なスピードで変化しているということでしょう。
人材の多様化が進む企業では、「同じ会社にいるのだから、言わなくてもわかる」という前提が通用しなくなっています。「伝えた」ではなく「相手がどう理解したか」までをコミュニケーションの完成とする発想が求められます。
経営者の仕事は、数字を見ることだけではありません。人を動かし、組織を動かし、未来を示すことも経営者の重な仕事です。そのとき最も身近な経営資源となるのが「言葉」です。理念も、ビジョンも、方針も、評価も、感謝も、叱責も、すべて最後は言葉になります。だからこそ「人と人との間にある認識のズレを小さくし、信頼をつくるための言葉の力」を経営課題として捉えることが必要ではないかと、考えさせられる「国語に関する世論調査」でした。
