ロングセラー「思考の生理学」(外山滋比古著)は、1983年に刊行、1986年文庫化、2024年新版化。さらに、2025年11月重版予定で累計発行部数300万部を突破すると言われています。
「思考の生理学」は、お茶の水女子大学名誉教授である故外山滋比古氏による学術エッセイですが、東大・京大生に一番読まれた本ということでも話題になりました。
以前、本レポートでもご紹介しましたが、著者が言うとおり、今はまさに「人生二毛作」時代です。人生100年時代を迎え、私たちは定年後が長い人生を生きることになりました。
あらためて「人生二毛作」「晩年の知的生活術」とは、どんなものか考えてみたいと思います。
「思考の整理学」「50代から始める知的生活術」外山滋比古著 より
「人生二毛作」とは
著者は、農業の「二毛作(ひとつの田畑で年に2度作物を育てる)」という言葉にたとえ、人生も一度きりの「単作」ではなく、二度目の「二毛作」を生きようと提案しています。
第一の人生(第一毛作)
若い頃から中年期までの時期で、仕事・家庭・子育てなど、社会的な役割を果たす時期。これは「他人のため」「社会のため」に生きる時間です。
この時期は忙しく、自分のやりたいことよりも、義務や責任が優先されがちです。
第二の人生(第二毛作)
定年以降や、人生の折り返しを過ぎたころ。ここからが「二毛作」の始まりです。「人間は、老後にこそ『第二の創造』を行うことができる」。つまり、これまでの経験を生かし、好奇心をもって新しいことに挑戦し、もう一度、自分らしく生き直すこと。これが「人生二毛作」になります。
「やり直し」ではなく「熟成」を
ポイントは「やり直し」ではなく「熟成」。若い頃にはなかった視点や余裕をもって、第二の人生をより深く味わうことが大切です。
たとえば、「若い頃にできなかった勉強を始める」。または、「仕事とは違う分野で創作や地域活動をする」。「読書や思索で『自分の世界』を育てる」など。これらは、第一の人生の「みのり」をもとにした第二の収穫です。
また、「人間の知的生活は、年をとってからが本番である」「老いは、劣化ではなく熟成の時期だ」ということで、人生の後半は終わりではなく、もう一度耕す時期。それが「人生二毛作のすすめ」になります。
50代からの知的生活術「知的生活の習慣化」
晩年の「知的生活術」として、以下のことが提案されています。
- 「年齢を言い訳にしない」どうせ、、、と言わない。
- 「男子、厨房に入るべし」自分のことは自分でやる。料理は脳の活性化に有効。
- 「知的生活の習慣化」読書、学び直しなど、知的活動を日常に取り入れる。注意*単なる知識の詰め込みではなく、自分の思考を引き出すための方法として。
- 「淡い交わり、大きな収穫」雑談・放談は若返りの秘薬。淡交。二次会なし。
- 「心身を保つ生活習慣」決まった時間に起きる。ウォーキングなど、外出をする。身体と知性の両方を衰えさせない生活を意識。
- 「マイナスからの出発を恐れない」50代、60代で「もう一度ゼロから」の感覚を持つことの勇気。失敗や停滞を恐れず、新しい道を模索する。
中でも、印象深いのは「主の歓び」です。
「主」とは、主役でも主体性でもなく、「ホースト(host)」。人を招いておもてなしをすることの歓びです。ご馳走するからと誘えば、たいていの人は恐縮はしても悪い気はしません。食事をしながら談笑すると気分もほぐれ、警戒心をときます。ご馳走する側への気遣いもあり、素顔のいいところが出ます。豪華な宴でなくていのです。文字通り粗餐。ささやかなものであっても、これほど心楽しいものはないといいます。