「ワーク・エンゲイジメント」とは、「仕事に誇り(やりがい)を感じ」「仕事に熱心に取り組み」「仕事から活力を得ていきいきしている状態」 以上の3つが揃った状態です。
日本の労働環境は、人手不足が顕著になり、従業員のメンタルヘルス対策としてだけではなく有能な人材を集め定着させるためにも、ワーク・エンゲイジメントを高めようとする動きが企業で強まってきています。コロナ禍の米国で自主退職者が出て大きな問題となりましたが、今後は日本でも働きがいを感じない企業から従業員が去っていくといった指摘もあります。長期的な予想については、2040年には全国で1100万人余りの人手不足が起きると、リクルートワークス研究所が発表をしています。今回は、ワーク・エンゲイジメントの今を特集します。(JAICO 一般社団法人 日本産業カウンセラー協会)
1、熱意のある社員の比率が最下位の日本
人手不足は、「従業員の働きがいや意欲の低下」を招き、その結果として企業が提供する商品やサービスの低下を招くことを労働経済白書が指摘しています。
こうした状況に対して、仕事を効率化したり、高齢者を募集要項に加えるといった採用枠の拡大などの対策とともに重要視されているのが、「働きがい」のある職場づくりです。そして「働きがい」を客観的に捉えることができるのが、ワーク・エンゲイジメントなのです。ワーク・エンゲイジメントが高まれば、離職率が下がり人手不足の緩和に繋がります。さらに自発性が高まることもわかっており、それは企業が提供する商品・サービスの品質向上や管理職の負担軽減にもなります。また、ストレス軽減や睡眠の質の向上、従業員の健康、メンタルヘルス問題による休職といったことも回避できる可能性が強まります。
実は日本のワーク・エンゲイジメントは国際的に見れば低い水準です。米国のギャラップ社がまとめた2022年の「熱意ある社員の比率」では、調査した145カ国の中でイタリアと並び最低で5%(全体の5%のみが熱意のある社員)でした。しかも日本は4年連続5%を記録する低空飛行が続いています。
2、「緩境界時代」がキャリアの意識を変える
昨今は、境界がはっきりしない「緩境界時代」と言われています。たとえば、現役と老後にしても、いつから老後に入るのかはっきりしません。定年になって再雇用される人もいます。テレワークなどの影響で、仕事とプライベートも曖昧になってきています。長期休暇を確保するために、休暇先でも会議に出席するというワーケーションも話題になりました。これまでマネジメントされていた境界が、少しずつ緩やかになり、働き方にも変化が起きています。組織は働く人のキャリアや働き方を、どうサポートしていくのかを真剣に考えなければいけません。
これまでの従業員は、与えられた職場環境に入り、そこで会社のサポートを受けていればよかったのです。ところが今後は、自主的に自分の働き方を考え、自身のキャリアに主体的に向き合っていく必要が出てきました。
3、「ワーク・エンゲイジメント」対策
ワーク・エンゲイジメント対策と銘打ってやるよりも、働きやすい職場をつくる、働きがいのある職場をつくる中で、結果的にエンゲイジメントが上がってきます。
たとえば、キャリアをきちんとデザインできる研修があったり、職場のコミュニケーションが高まるような工夫や仕掛けをつくるといったことです。
組織の強みを見極めるために、従業員満足度などを測るアセスメントサーベイを活用するのも一案です。また、現場の声を集めて部署ごとに整理し、「これがあるから、みんな生き生き働けるんだ」と思えるポイントを探し出すのもいいでしょう。
4、コロナ禍の影響による意識の変化、社会の変化
コロナ禍の影響により、伝統的な日本の働き方を立ち止まって見直すきっかけになりました。たとえば、同じ時間に同じ場所に集まり、顔を合わせて仕事をするという当たり前を疑問視するなどです。
コロナ禍でテレワークも増え、自分に向き合う時間が増えた人もいます。緊急事態宣言が発出された当初は、著名人の死などが報じられ、死について本気で向き合った人も少なからずいます。そうした中で、どうせ働くなら、受け身的ではなく、楽しみや喜びを見出したいと思った人もいるでしょう。ワーク・エンゲイジメントは、そうした時流にも合致しており、「人的資本」を考える時、今後ますます問われるものになるでしょう。