どんな時でも人は笑顔になれる 1
世界がパンデミック・コロナで怯える中、つらいニュースに心を占拠されないよう、元気になれるような情報をお届けしたいと思います。
「どんな時でも人は笑顔になれる」(渡辺和子著 PHP研究所)は、著者(2016年12月30日逝去 享年89歳)が亡くなる10日前に校閲を終えた遺作です。不安、不信、不満の多い昨今だからこそ胸に染み入る言葉に出会えます。マザー・テレサのもとで、その生き方に触れ、生涯を教育に捧げた著者は、「人の使命とは、自らが笑顔で幸せに生き、周囲の人々も幸せにすること」といいます。さあ、笑顔のヒントを見つけにいきましょう。
1、「名前で呼ぶ」その心遣いが、人を目覚めさせ、生きる喜びを引き出す
~人を育て、世の中を良いものにするのは、「あなたがたいせつ」という思いを誠実に伝え続ける人の努力。
「おはようございます、◯◯さん」
と、前から歩いてくる学生に声をかけます。すると、その時まで無表情だった学生の顔が明るくなり、なんともいえない嬉しそうな顔であいさつを返してくれることがあります。それはまるで、廊下を歩いていた一つの個体が、自分の名を呼ばれて人間にたちもどった瞬間と行ってもいいかもしれません。
多くの学生と接する中で、あらためて名前を覚えること、そして名前で呼ぶことの大切さに気付かされる瞬間です。そんな時、思い出されるのは、昔習った一人の教師の姿です。
その人は、生徒の名前を驚くほどよく覚える人でした。用事を頼む時なども、「◯◯さん、お願いします」「◯◯さん、どうもありがとう」と丁寧に名前を呼んで言われるのが特徴だったのです。もう一つ、この人について覚えていることは、こちらから出した手紙に、忙しくても、時日がたってからでも必ず自筆で礼状を書かれることでした。時候の挨拶程度の葉書にまで、自筆の返書を受け取って恐縮したものです。
しかしながら、こういう小さな心遣いが、相手に、自分では気づかなかったおのれの価値に目覚めさせることがあることを、この人は教えてくれました。
2、無駄な時間に価値がある
~速いばかりが能ではない。費やした時間には愛情が宿り、育っている。
私には物事ののみこみの遅いところがあります。しかし、一旦のみこむと、仕事はわりに速いと思います。その私が忘れられないのは、母のこんな言葉です。
「和子、速いばかりが能ではありませんよ。あなたの仕事は速いけれども、ぞんざいです」
星の王子さまは地球上に何千本と植えられているバラの中に、自分が星に残してきたのと同じ花を見つけることができませんでした。いぶかる王子にキツネが言います。
「君があのバラの花を大切に思うのは、そのために時間を使ったからだよ」
面倒に思いながらも水をやり、虫を取り、風よけを作ってやった時間は、いつしか、王子とバラの花との間に愛情を生み育てていました。
お金にならない時間、得にならない時間、その意味では無駄と思える時間の中にしか愛情は育たないということです。
スピード至上、インスタント万能の世に、待つことの大切さ、無駄な時間の価値を説くこと自体、時代遅れ、検討ちがいと言われるかもしれません。しかしながら、待たないですむ人生などありはしないのです。そうだとしたら、待つことの意味も知らなければならないでしょう。「急くことは、おまかせしていない証拠」と、かつてあるお坊様に言われて耳が痛かったことがあります。
何もかも自分の思い通りに、思い通りのスピードで運ばれるはずだという思い上がりを正していただいた瞬間でした。
「どんな時でも人は笑顔になれる」(渡辺和子著 PHP研究所)