F&Aレポート

「きらいな諺(ことわざ)をひとつあげてください」谷川俊太郎の33の質問

 私が主催する『アクエリアス話し方スクール』では、今期「聞く力」「引き出す力」「質問力」について学びを深めています。「聞く」という行為は、コミュニケーションの土台です。コミュニケーションとは、「情報共有」だと私は考えています。

 通常の会話はお互いが、「話し手」になったり「聞き手」になったりしながら、その時々で立場を替えながら情報交換をします。特に目的のないおしゃべりならば、それで良いのですが、「この人を理解したい」「この事実についてしっかり確認しなければならない」などの目的のある会話なら、「聞き方」にも工夫が必要になります。

 ビジネスでいえば、「ホウ・レン・ソウ」や「1on1ミーティング」、「ヒアリング」、「会議の場」などが考えられるでしょう。

 たとえば、「この前の現場はどうだったの?」という漠然とした聞き方では、「特に問題なかったです」とか、「ふつうでした」という漠然とした答えしか返ってきませんが、「この前の現場には、何時間滞在したの?」や、「働く人について気になったことを3つ聞かせて」という聞き方なら、自ずと回答は変わってくるでしょう。すなわち「引き出される情報」が変わるということです。

 日本を代表する長寿番組のひとつ「徹子の部屋」は、インタビュアーである黒柳徹子さんが、ゲストの素顔・魅力といったものを「インタビュー」により、「引き出して」いきます。当然、その背景には、事前にゲストの情報を何時間もかけて調べた上で、ポイントを絞り、限られた時間で視聴者にわかりやすく伝えるというご本人の準備があります。その上で、本質を問う良い質問が重ねられていくのです。主役はゲストですが、会話のハンドルを握るのはインタビュアーです。

「聞き方」は、その後のコミュニケーションに影響します。会話が苦手な人や、職場のコミュニケーションに課題感のある人は、質問や聞き方を見直してみることをおすすめします。

秀逸な質問の宝庫「谷川俊太郎の33の質問」(ちくま文庫)

 『谷川俊太郎の33の質問』(ちくま文庫)は、こんな質問をされると思わず考えてしまう。そして、間違いなくその後の会話展開が面白くなる。その人の仕事や価値観、ライフスタイルが浮かび上がるなあという質問です。

 たとえば、「自信をもって扱える道具をひとつあげてください」という質問に、あなたならどう答えますか?当然、少し悩んでしまうでしょう。まず、どんな道具があるのかということ。さらに「自信をもって扱える」となると、何だろうと。

 私の教室では、「キーボード(タッチタイプができる)」「測量機器(仕事で毎日使っているから)」「ドライヤー(髪を乾かす時の自分なりの流儀がある)」「ジェット風船膨らまし器(風船を膨らませるのが誰よりも早い、上手い!)」などの答えが出てきましたが、いずれもその人の知られざる素顔や、職場での様子、ライフスタイルなどが見事に浮かび上がりました。

 これが「好きな道具は?」だと、差し障りのない答えにとどまってしまったかもしれません。

 また、「きらいな(ことわざ)をひとつあげてください」。好きな諺を聞かれることはあっても、嫌いな諺を聞かれることは、珍しいのではないでしょうか。諺には価値観や信条が伺えます。

 「石の上にも三年」が嫌いだという人がいました。ジッと我慢し続けることに耐えれない。三年も経てば世の中変わっている。機会損失だ!というのです。好きな諺を語るよりも、きらいな諺の方が興味深い展開になりました。

 「草原、砂漠、岬、広場、洞窟、川岸、海辺、森、氷河、沼、村はずれ、島 どこが一番落ち着きそうですか?」。これは、単純に「落ち着く場所を教えてください」とは違います。

 「落ち着く場所を教えてください」なら、答えは「自分の部屋」「車の中」「トイレ」など、生活の中にあるリアルな場所になりがちですし、ある程度、想像できる答えです。これは「抽象的な聞き方」とも言えます。「抽象的な聞き方」は「抽象的な答え」を引き出します。抽象的な答えから「本質」を探るのは難しいことです。

 また、「好きな場所」ではなく「落ち着きそうな場所」と問うているところに、ひねりを感じます。「落ち着きそうな場所」は、体験がなくてもいいのです。

 どこで、どんな風に過ごすのが、その人にとっての「落ち着きそうな場所」なのか。そこには、子供の頃の思い出とか、故郷への思い、そっと抱いている憧れなども見え隠れします。その人の意外な面を引き出し、コミュニケーションも深まるように思いますが、いかがでしょうか。