物を持つときは「中指」を意識して
手や指先は、他人からの方がよく見えるものなのかもしれません。何かを指し示すとき、書類を手渡すときやなど、意外に手や指先の形・動きが目立つものです。
「幸せを呼ぶ礼法入門 日々ごゆだんなきよう」(上田宗冏著 角川書店)には、『美しく見える物の持ち方』として、興味深いことが書かれていました。
物を持つ時に美しく見えるとは、「道具と体が一体になること」。そのためには、常に体の中心で物を扱うことが大切なのだそうです。
たとえば、机の上にあるコーヒーカップを手に取るとき、どの指を使いますか?または、どの指に力が入っていますか?
コーヒーカップの取手を親指と人差し指で持ち上げようとしたら、小指が立ちます。また、他の指がバラバラに開いてしまいます。小指が立つのは品がないとされています。また、指がバラバラに開くのも無造作に見えて美しいものではありません。
美しく持つには、「中指」に気を入れて持つのだそうです。そうすれば、小指も立たず、他の指も開きません。親指と中指の二本に力を入れてしっかり持ち、人差し指は軽く添えるだけです。
中指は脳の中枢神経から、体中の筋肉に連結していると言われます。親指と中指で持つと、体全体で持っている感覚になります。人指し指は「人を指す(差す)」と書く通り、相手を意識する指です。それに対して、中指は中心の指、物を持つ指なのです。
実は、中指に気を入れて物を持つ場合と、人指し指に力を入れて持つ場合とでは、体の感覚がまったく違います。
茶の湯では多くの道具を使います。その道具を大切に扱うために、道具の持ち方の稽古から始まるのです。正座をしている場合は、おへその高さで、膝より3センチメートル体に近づけて物を扱うそうです。常に体の中心を意識すること。これは、結局すべての無駄のない動き、美しい動きに通じるのかもしれませんね。