50歳からの音読のすすめ
1.音読の効果
音読は、黙読とちがい「書かれているものを声にだして読むこと」です。誰かに読んで聴かせる朗読ともちがいます。朗読は、書かれている内容を理解・咀嚼・把握し音声で他に伝えるために読むものです。音読は「自分が理解するための読み」なのです。
小学校の頃は、国語の授業や宿題で「音読」がありましたが、大人になると音読をする機会もぐっと少なくなります。
企業で研修をしていると「まとまった文章や、漢字が読めない」「語彙が少ないために表現力に乏しい」「理解力の欠如」などが、コミュニケーションに悪い影響を及ぼしていると見られる状況に出会うことがあります。そこで「音読」のすすめです。まずは一般的にいわれている音読の効果をご紹介しましょう。
(1) 集中力、記憶力が高まる
音読は、目で認識した文字を声に出して読みますが、厳密には声に出して読む時には、次の文字(文章)を目で追っています。そうしないと、よどみのない音読はできません。つまり、瞬間的に脳はほぼ同時にこの複雑な2つの動きをしています。
さらに書かれている文字を目で読み、理解し、口に出し、耳で聴くことで、3回復習をしていることになります。これは実は、自分がインプットした内容を人に教えるためにアウトプットするという作業を、簡単にして一人で行う作業なのです。
「復習する」「人に教える」という作業は、学んだことを憶えるのに最も効果的で、同時に目、口、耳を使うことで集中力が高まります。
(2) コミュニケーション力が向上する
音読をしていると前頭葉が刺激されます。前頭葉は言語能力や、やる気を高めるところです。アスペルガー症候群やコミュニケーション障害のある人は、この前頭葉の働きが弱いという報告もあります。言語能力とやる気アップで、行動力も高まり、コミュニケーション力も向上すると考えられています。
(3) 語彙力が高まり表現力、理解力が高まる
音読をすることで日頃使わない言葉や、練られた文章に触れることができます。また、それらの言葉や文章が自然に体に刻み込まれてきます。語彙も増え、自然に言葉の力を身に付けることで表現力を高め、また他者の言わんとするところを理解できる力も高めます。ひいては、思考する力も高めます。
2.なぜ、50歳からの音読??情感を磨き、味わう。後半生をどう生きるか
齋藤孝氏著「50歳からの音読入門」(だいわ文庫)では、次のようにあります。
五十歳くらいになると、各人各様の悲喜こもごもの人生経験が身の内に蓄えられています。それは言い換えれば、若い頃には持ち得なかった感受性が醸成されたということでもあります。その感受性は、古今の名著に綴られた言葉に対して、ちょっとした“化学反応”を起こします。豊かな表現力を持つ日本語が抽出する世界に感情移入できる度合いが、若い頃よりずっと大きくなるのです。その分、言葉がイキイキと感じられるし、身にしみて味わい深く感じ入ることができるようにもなるでしょう。
たとえば、「平家物語」全編に流れる「栄枯盛衰」を目の当たりにし、自身も禍福あざなえる縄のごとき人生を歩んできたからこそ、その情緒が心に沁みるのです。現実に戦場で戦った経験がなくとも、理不尽な思いに苦しみながら戦わなければならなかった武士たちの気持ちを、現代に生きる自分と重ね合わせて感じ取ることができます。
老年期を目前にすると、寂しさや孤独、むなしさなどに押しつぶされそうになることもあるでしょう。でも、古典に触れて「昔から人は皆、こういった感情を抱えて生きてきたんだ」と再認識する。あらゆる時代の人々が営々と紡いできた時代のひとつの大きな流れの一部だと感じ取る。そこに中高年になってから味わう古典の妙味があるように思います。自分の人生経験を踏まえて古典に親しみ、日本語の情緒を味わう。それが後半生を心豊かに生きることにつながると思うのです。(では何を音読すべきか。次号につづきます)