知的日本語トレーニング9 ~気になる敬語 「おられる」「お目にかかる」「頑張らせていただきます」
1.「おられる」
そこに居るか居ないかを問うときに、「○○さんは、おられますか?」と、言うのをよく耳にします。これは、○○さんに敬意を表す尊敬語を使っていますが、これは即座に正しいとは言い難い表現です。
なぜなら、「いる(居る)」の謙譲語は「おる」です。へりくだった表現(謙譲語)をつかって、間接的に相手を高める言葉が「おります」「おりません」です。謙譲語とは、自分や自分側の人間の行為につけます。謙譲語の「おる」に、尊敬語である「れる・られる」は付けません。
謙譲語は自分を下げる言葉、尊敬語は直接相手を高める言葉だからです。一つの単語に、謙譲語と尊敬語が混在する言葉はありません。
ではなぜ、「おられる」はよく耳にするのでしょうか。それは、方言だからです。「おられる」は、日本の西側でよく使われる方言なのです。「おられる」を使う人は、方言だという認識をもって使うといいですね。
2.「お目にかかる」
「一度、お目にかかっていただけませんでしょうか」
「お時間のあるときに、お目にかかれれば幸いにです」
「新入社員が、“部長にお目にかかりたい”と言っていますが、いかがなさいますか」
というように、「お目にかかる」は、「会う」ことをへりくだって言う表現で、「お会いする」や「会っていただく」よりも敬意が高い表現です。
そこで、注意したいのは、
★「部長、新入社員には、もうお目にかかりましたか」というような、間違った表現です。
誰に対して敬意を表しているのかということです。
前者の例文「部長とお目にかかりたい」は、新入社員(下位者)が部長(上位者)に対して「会いたい」ことを「お目にかかりたい」と表現しています。しかし、後者の★「新入社員には、もうお目にかかりましたか」では、部長(上位者)が新入社員(下位者)に対して「お目にかかる」つまりへりくだってお会いすることになってしまいます。
ほかにも「お目に?」という謙譲表現は次のとおり。
目上の人に何かを見せるときは「お目にかける」
目上の人の気に入ることを「お目にかなう」
目上の人に認められることを「お目に留まる」など。品のいい婉曲的な表現になります。
3.「頑張らせていただきます」
「一生懸命頑張ろうと思いますので、宜しくお願いします」
「精一杯、頑張らせていただきますので、どうぞ宜しくお願いします」
いずれも気持ちはわかりますが、間違った表現です。
「頑張る」は「物事を成し遂げようとする」強い意志の表現です。それなのに「思います」がついてしまうと、効果が半減してしまいます。この場合は、「一生懸命頑張ります」と言い切ったほうがはるかに潔いといえます。
また、「頑張らせていただきます」について。「させていただく」という表現は、誰かに許可を得て行うという意味です。「頑張る」は自分自身の行為で、許可を得る必要がないので、「させていただく」と、へりくだる必要はないのです。
キャリアを積んだ人が「頑張らせていただく所存ですございます」などと言うのは、恥ずかしいですね。