企業成長の鍵 「女性活躍企業」への道のり
■政府は成長戦略の中核として「女性の活躍」を掲げ、2020年までに「指導的地位の女性の割合を3割に引き上げる」という目標を定めています。生産年齢人口(15歳以上、65歳未満の生産活動の中核をなす年齢の人口層)の減少を受け、女性の社会進出を後押しするため、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に沿った職場環境の改善を進める企業を「女性活躍企業」として認定する仕組みを創設。助成金などの支援措置を新たに設け、女性登用の遅れが指摘される企業の意識変革を促すということです。
■ 果たして、この目標が実現可能かどうかは別として、今後、企業を評価するひとつの指標として「女性の
役員、管理職の割合」「女性がどんな働き方をしているか」ということが、企業を選ぶ、または取引をするひとつの要点となると思われます。それは、たとえばリクルートや業務提携の際に、対個人、対企業において、企業の方向性や、経営者の姿勢を問う重要項目の一つになるであろうということです。
■ 現在、中小・零細企業において、「人を募集しても、人が集まらない」という話を耳にします。先に述べたように、今後ますます労働人口が減少する中で「優秀な人材をいかに確保できるか」が、企業の明暗を分けることになるのは容易に考えられます。眠れる女性力を活用するには、まずは、女性も男性も意識を変えていかなくてはなりません。
1.ジェンダー・ギャップ 「女性の活躍」先進国では異例の低さ
日本は男女平等の度合いがとても低い。各界のリーダーで作る国際機関「世界経済フォーラム」が10月に発表した2013年版の男女格差(ジェンダー・ギャップ)指数で、日本は136カ国中105位だった。昨年よりも4つ順位を下げて06年に調査が始まって以来最低となた。韓国は日本よりも低い111位だが、ほかに日本より順位が下なのは女子の行動や機会に制限のあるイスラム諸国がほとんどで、先進国では異例の低さといえる。
ジェンダー・ギャップは、経済的な平等、政治参加、健康と寿命、教育の機会の四つの分野で、男女の格差を調べている。日本は、特に政治と経済の分野で女性の進出が遅れていて、それぞれ118位と104位だった。その理由として「男は仕事、女は家庭」という役割分担の意識が抜け切っていないことが挙げられる。また、日本では長時間労働が日常化しているため、家事や子育ての負担の重い女性が、職場でキャリアを積むのは容易ではない。
企業側も女性を管理職にしない理由に「経験不足」を一番に挙げているが、それではいつまでたっても女性の登用は進まない。今年4月に安倍首相が「女性の活躍を成長戦略の柱に位置づける」と表明し、これまで女性の登用に消極的だった経団連もようやく活躍推進のための活動を始めたという現状である。
2.女性起用で職場が変わる
そんな中、結婚、産後も働く女性達を支援し成果を上げている会社もある。日産自動車(横浜市)が発売した乗用車「ノート」は、同社初の女性の商品企画責任者を起用して開発された。子どもを抱えて乗り降りしやすい後部座席ドアをはじめ女性のニーズに応える機能を取り入れたことが幅広い消費者に受け入れられた。育児休業優の女性社員の車の使い方をビデオに撮るなどして商品開発に役立てたという。
ダイバーシティは日産でも重要な経営戦略となっている。意思決定層の多様化を目指して女性管理職の育成を柱の一つと位置づけている。きっかけは1999年、仏の自動車会社ルノーとの提携。多くの女性部長が活躍していたルノーに刺激され、2004年にダイバーシティ推進の専門部署を設置。
課長を目指す女性にキャリアアドバイザーがつき、女性の直属上司らとともに育成計画を立てて支援している。女性の商品企画責任者もこうした取り組みから誕生した。同社ダイバテーシィディベロップメントオフィスの室長は最初「ダイバテーシィって何?」という声もあったという。しかし、女性管理職が増えて意識が変わった。グローバルにビジネスを展開するときに「なんで女性?」なとど言っている場合ではないと。
3.「女性躍進」の遥かなる道のり
実際は「女性を管理職に」と旗揚げしても一朝一夕には実現しづらい。
まずは、女性社員の意識が育っていない。これまで男性の補助的な役割しか与えられていなかった女性にいきなり管理職のハナシを持ち出しても尻込みするばかりである。イメージすらできないし、「女性だから」という甘えもあるのが普通である。
次に、男性も戸惑う。頭の中では、女性の活躍が必要だとわかっていても、いざ自分自身の奥さんが、急に仕事に邁進し「家事と育児を分担してください」と言われても正直、面白くないだろう。即ち、「女性の活躍」とは、職場においても家庭においても、自分に利害の及ばないところでやってほしいのが現実である。
つまり「女性躍進」のためには、ハード、ソフト面において職場環境を整える必要がある。女性の上司であっても協力できるかどうか、また、育児休暇や労働時間の柔軟性など。これらが整備されてはじめて可能になり「女性の躍進」が実現するのだ。
「男は仕事、女は家庭」の概念を覆すべき、長い道のりかもしれないが、質の良い労働力を確保し、企業が世界でも地域でも、生き残るには避けて通れる道ではないであろう。