F&Aレポート

「豊かさの方程式」私たちの働き方・働く目的、キャリアとは、幸せとは?~スペイン バスク“ゲルニカ”“モンドラゴン”に学ぶ

「豊かさの方程式」私たちの働き方・働く目的、キャリアとは、幸せとは?~スペイン バスク“ゲルニカ”“モンドラゴン”に学ぶ

 2000年10月、アクエリアス一行はスペイン視察を行い、スペイン最大の協同組合であるバスク地方のモンドラゴン協同組合を訪ねました。あれから16年の歳月を経て、モンドラゴン、ゲルニカの視察報告を聴くご縁に恵まれ、再び「真の豊かさ」について思いを馳せてみました。

 現在の日本が抱える課題である、少子高齢社会、貧困・教育格差、環境・エネルギー問題、食料自給率の低さ、出生率の低下に伴う人口減少など、一生懸命働いても幸せになれない(幸せを実感できない)社会を見過ごすのは、責任放棄、生きることの放棄ともいえるのではないでしょうか。

 社会を変えられないけど、変えるきっかけをつくることはできて、それは世の中のリーダーの使命なのだろうと考えます。

 1937年スペインの内戦で、ドイツ軍による無差別攻撃を受けたゲルニカとヒロシマは、非人道的な惨劇の歴史が共通していて「ヒロシマとゲルニカの架け橋」プロジェクトが静かに進んでいます。6月29日アクエリアス・リーダーズ・サロンにおいて、スペイン報告会を開催し、暮らしや働き方、常識を見直してみたいと思います。ついては、世界中から注目され続けているモンドラゴンとは何なのか。2000年のアクエリアスレポートを再びまとめてみました。

1.モンドラゴンのリーダーシップ~全員共同経営者で出資者
 スペイン バスク地方にあるモンドラゴンは「資本が労働を支配するのではなく、労働が資本を支配する」という原則に基づき、「人間は尊敬されるべきもので、一人は万人のために、万人は一人のために」という考え方でスペイン最大の協同組合が設立されている。

 モンドラゴン生活協同組合は、バスク地方のレニス渓谷で、スペイン内戦後(1939年)、共和国軍に新聞記者として参加したカトリック司祭ホセ・マリア・アリスメンディアリエタが1943年に技術学校を創設。20人が卒業し、11人が大学へ進学した。卒業生5人で100人の出資者を募り、ストーブと石油調理コンロの生産を1956年に労働の自主管理方式で始めたことから出発。

 マリア・アリスメンディアリエタ氏は村の復興に一番必要なのは「教育」であり。同じ教育を受け、思想を伝えた若者が自立して起業することが村を豊かにできる方法であると考えた。ここでは労働者は雇われるのではなく、1人当時160万ペセタ(1ペセタは日本円でおよそ1円)を出資して、共同経営に参加し、働いて商品をつくり、輸出や販売によって得た利益の配分を受け取る。利益の10%は教育費へ、20%は内部資金として留保し、残り70%は出資額に応じて配分される。賃金ではない。バスク地方80万人のうち2万8千人が組合員である。

2.全世界へ輸出する生産性と金融
 生産事業は、冷蔵庫、洗濯機、電気ストーブ、電話、コンピュターソフト等の生産部門と、製造機械などをつくる工作機械部門。さらに、乳牛1500頭による牛乳、バターなどの乳製品や、養豚6000頭、化学肥料、製材等の農業部門。スーパー225店を含む13万人の消費組合がある。総売上2100億円ほどのスペインで7位の事業規模である。(2000年現在)

 資金はスペイン全土に支店を持つ労働人民金庫が、他の銀行より1%預金利子が高いため多種の預金を吸収して出資している。

3.労働と教育
 学生は工場で働くことで授業料や生活費が保障される一方、労働と教育を融合させている。ロボットやマイクロエレクトロニクス等の多方面で先端技術の研究部門も有している。ここではバスク語とバスク民族文化を堅持し、家事労働から女性を解放する給食やパート労働などを保障している。モンドラゴン協同組合にないのは軍隊だけと言われるぐらいの地域共同体である。

 モンドラゴンでは利益追求の前に、村人の生活向上が常に最優先されている。それを支える思想と、戦略で世界に羽ばたいた企業である。モンドラゴンは生活協同組合として有名になったが、一般的な協同組合のイメージとは、規模、思想、哲学面で圧倒的に異なっている。内戦で絶滅した村を世界トップに変えたホセ・マリア・アリスメンディアリエタ司祭が「いつもなすべきことを」と時代を越えて語りかけているモンドラゴンである。

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