F&Aレポート

あなたはちゃんと聴けますか? アサーションを知る 1 ~自他を大切にした自己表現で円滑なコミュニケーションを~

あなたはちゃんと聴けますか? アサーションを知る 1
 ~自他を大切にした自己表現で円滑なコミュニケーションを~

 アサーションとは、自分も相手も大切にした自己表現をいい「自分の欲求や意見、気持ち、価値観などを正直に適切に表現すること」をいいます。自分の気持ちや考えを相手にわかってもらうためには、自分の言いたいことが明確になっていて、伝えるためのスキルが必要です。職場でも家庭でもアサーションは今、注目され必要とされています。(深く聴くための本 アサーション・トレーニング 森川早苗著

1.多様化 常識が通用しない
 たとえば、出かけるときには、おむすびを作ってお茶は水筒に入れて持って行くというのが当たり前だった世代と、コンビニで買っていく世代では常識が違うこともあります。
 また、文明とインフラの発達により国内外の移動はずっと簡単になりました。海外から日本に来て働いている人もたくさんいます。異なる文化を持つ人と働く、同じ地域で暮すという多様化時代になりました。「私にとっての常識」は「相手にとって非常識」になる可能性は多分にあります。今の時代「わかっているだろう」「察して欲しい」は通用しません。自分のことを伝える。相手のことを聴くというアサーションが必要なのです。

2.メンタルヘルスの予防とマネジメント
 従来のやり方から、成果主義、競争主義が行き過ぎて、リストラが行われたり、就労条件が変わったりして、心身にストレスを抱える人が増加しています。職場のストレスは、仕事そのものだけで決まるのではなく、人間関係が大きく関わってきます。お互いをねぎらいあえない、協力できない、会話がない職場は、働く人のやる気や主体性を奪うこともあります。「ものが言える」職場、一人一人が大切にされ、自分が言ったことを聴いてもらえる職場であることが重要です。

3.3つある対人関係の持ち方
(1)ノン・アサーティブな言動(非主張的、受身的)
 自分のことは後回しにして、他人を優先する言動をノン・アサーティブと言います。自分の言いたいことを抑えて言わなかったり、遠回しに言ったりします。
 また「もめ事を起こしたくない」「相手に逆らってはいけない」と思い込んでいると「私さえ我慢すれば」という考えになります。しかし、自分の思いは伝えていないので、相手にはこちらが「我慢したのだ」とは、伝わっていません。結局その場で解決していない思いを溜め込むのでストレスが溜まりやすく、八つ当たりをしたり、突然爆発したりします。あるいは、肩こりや頭痛といった、身体に変調が表れたり気持ちが落ち込んだりします。
 ノン・アサーティブな人は「私はダメだけど、あなたはいい」あるいは、「私は大事ではないけど、あなたは大事」というI’m not OK. You are OK.です。また「イヤだ」と言えない人は、相手に嫌われるのではないかと恐れていることもあります。
(2)攻撃的な言動(アグレッシブ)
 自分を優先で、他人を無視したり、関心を示さないような言動を攻撃的と言います。攻撃的な人は、自分の意見をはっきり言えるし、自分の欲求は大事にしますが、相手にも同じように欲求や意見があるとは認めていないので、「自分が一番正しい」「相手は自分の言う通りにすべきだ」と相手を支配し、自分の思い通りにしようとしたり、相手の言い分や気持ちを無視、軽視します。「私はいいけど、あなたはよくない」というI’m OK. You are not OK.です。
(3)アサーティブな言動
 自分のことをまず考えるが、相手のことも十分考慮するという言動をアサーティブと呼びます。これは、自分も相手も大切した自己表現です。自分の感じていることをおとしめず大切にし、自分の欲求や意見を伝え、相手の言い分を聴く余地があり歩み寄っていく、お互いに人権を大切する自己表現です。
 しかし、私たちはいつも自分の意見がはっきりしているわけではありません。「よくわからない」「決められない」こともあります。そんな自分も認めるということです。相手を尊重するとは、相手の言い分をすべて飲むことではありません。断ることもありますが、その断り方に、自分も相手も尊重する態度があるということです。私もあなたも大事というI’m OK. You are OK.です。

4.アサーション 自己理解とアサーション権を知る
 人はいつもどんな状況でも、同じであるわけではありません。時にはノン・アサーティブになったり、アサーティブにできたりと場面によって違うことはあります。ただ全体的な傾向として、ノン・アサーティブでいることが多い人とか、攻撃的な状態が長いと見える人がいます。アサーション権や認知の面でアサーションを理解できると、どんな状況でも、どのように反応するかを自己選択できるようになるので、そういう人はアサーティブな人といえるでしょう。アサーションができるためには、自己信頼を深めることとアサーション権を知ることが助けになります。

(1)自己理解
 自分は何が好きなのか、何を大事にしていて何が苦手か、どんなことを感じているのかということを知っていること、自分が何を言いたいのかがはっきりしていることです。自己理解を深めていくと「現実の自分」は「理想の自分」とは一致していない「不完全な自分」であることが分かります。
(2)自己受容 → 他者受容
 自分のことが嫌いだと言う人がいます。これは不完全な自分を受容できていないと言えます。頑張ったり、諦めたりしている不完全な自分を受け入れることができると、他者もまた、不完全であることを受け入れることが可能になります。
(3)自尊心
 不完全な自分を大切と思えること、この自尊心がアサーションの原動力になります。たとえば、「私の考えは不完全で未熟かもしれないけど、それを大事にしていい」ということです。だから「私はこう思う」と言えるのです。すると相手の言っていることも未熟で不完全なのですが、自分と同じように、大事なこととして聴くことができるのです。
(「アサーション権を知る」は、次号につづく)