「社会性」または「同調」。「権威主義」「承認」「評判」など、このハウスフライ効果は群れを形成する。群れには厳格なルールと明確なヒエラルキーがあり、もっとも権威のある者を手本にして、他はそれに倣う。この種の一体感は賞賛に値するものの、暴走する危険性も秘めている。このハウスフライ効果をほのめかすだけで仲間が集まる。*ハウスフライ効果=ある場所での蝶の羽ばたきが、遠くの場所でのハリケーンを起こすような、小さなことが大きな効果をもたらす現象。今回も、人を動かす認知バイアス(勘違い)について事例を挙げて、私たちが知らず知らずのうちに動かされている(操られている)身の回りの出来事について考えてみたい。(「勘違いが人を動かす」教養としての行動経済学入門 エヴァ・ファン・デン・ブルック&ティム・デン・ハイヤー 児島修訳 ダイヤモンド社)
「人を動かすメール」を書くときの工夫
A 「2ヶ月前、『みんなでつくるプロジェクト』について皆さんの意見を求めました。しかし、これまでに寄せられた回答は1件のみです。意見のある人は、明日までに送ってください。これは皆で実践するプロジェクトです。ご協力を」
B 「『みんなでつくるプロジェクト』は順調に進んでおり、これまでよりも多くの意見が集まってきています。できるだけ全員の意見を取り入れたいところですが、採用できるアイデアの数には限りがありますので、未提出の方はぜひ今週中に提出してください」
AとBのメール、プロジェクトのメンバーが意見を提出してくれるのはどちらだろうか?人は、自分と同じ状況の人間がいると安心する生き物なのだ。Aの文面を見ると「なんだ、みんな意見を提出していなかったんだ。自分だけ時間を費やしたりしなくてよかった」と。メールを見てメンバーはホッとしているはずだ。
Bは、ソーシャルプルーフ(=他人の行動によって自分の行動や意見が変わること)と、希少性(=手に入りづらいからこそ欲しくなる)を活用した文面。あなたが意見を出したくなる(出さねばならないと感じる)のはどちらだろうか。※0件だった意見の数が1件になったのだから「これまでより多くの」と言って差し支えない。嘘をついて、相手が騙されたと感じない限り。
「他人の目」を気にして人は行動を変える
他人からどう思われるかは、私たちの行動に影響を与えている。たとえ、近くに誰もいないときでも。私たちは他人の目を通して自分自身を見ているのだ。
誰かに見られていると意識するだけでも、私たちは良い行動をとろうとする。
科学がこのことを研究しようとするはるか昔から、宗教はこのことを知っていた。だから「神はすべてをお見通しである」というメッセージを信者に与えてきたのだ。
政府もこの力を活用している。英国では、スピード違反の罰金未払い者に、違反したときの運転中の写真を申告書に添付して送ったところ、一気に支払い率が上がった。同じく、ロンドン郊外で、シャッターに子どもの顔を描くと、悩みのタネだった破壊行為は約24%も減少した。
私たちの脳は、顔と目を特別なものとして捉えている。車や雲、コンセントを見て、人の顔のように見えることがある。人間のこのような習性をパレイドリアという。
脳は、絶えず顔の形をしたものを探している。私たちは無意識のうちに、他の生き物がどこにいて、何を見ているのかを知りたいと思っている。おの脳内のメカニズムは視線検出器(EDD)と呼ばれ、幼い子どもの頃から見られる。このメカニズムは『注意力ハッキング』を引き起こす。私たちは、顔の形をしたものに強く注意を奪われるのだ。
ある実験では、募金箱におもちゃの目を貼り付けることで、慈善団体への寄付金が1.5倍も増えた。ただし、一連の研究を分析したところ、女性の目を使わない限り、その効果は弱まることがわかった。女性の目があるときには、男性は慈善団体にはるかに多くの寄付をした。
ここで、大切なポイントを教えよう。会社のポスターに魅力的な女性の画像を加えたいのなら、必ずその女性の目がポスターの内容を説明する文字の方向を向いているようにすること。女性の目線が何もない壁に向かっていると、ポスターを見た人もその方向を見てしまうからだ。