コミュニケーション戦略とは「人を動かす」こと~ブランド論:「らしさ」の記憶が、人を動かす
■ 「コミュニケーション」という言葉はあまりにも一般的ですが、学問的には「情報伝達だけではなく、意志の疎通、心の通い合い、互いに理解し合うということが起きてはじめてコミュニケーションが成立した」とされるそうです。経営学の権威、ピーター・ドラッカーは、「コミュニケーションは情報ではない。一方通行の情報で、受け手の関心や期待の範疇に入り込めないものはコミュニケーションではない。」と、言っています。
■受け手の興味、関心、期待の範疇に入り込み、受け入れたくなるような理由をつくることこそがコミュニケーション戦略といえます。つまり「人を動かす戦略」です。商売でいえば、最終的にはお客さんが企業の商品・サービスを購入するという行動を生み出すことです。法律でしばったり、強制力を行使したりするのではなく、人が自発的に行動を起こすようになんらか顧客心理に働きかけることです。今回は、コミュニケーション戦略の中の「ブランド論」についてご紹介します。(“人を動かす”7つのコミュニケーション戦略 磯部光毅著)
1、「ブランド論」
コミュニケーション戦略の中で、「違い」こそが人を動かすポジショニング論に対し、「ブランド論」は、「らしさ」の記憶こそが人を動かすという考え方です。
「ブランド」という言葉の語源は、もともと牛飼いが自分の牛と他人の牛を区別するために押した焼き印(Burned)だそうです。焼き印やシンボルといった「マーク」を見るだけで、商品の特徴、品質、価値などが浮かんでくる状態になってはじめてブランドとなるわけです。「らしさ」の記憶というのがもっともオーソドックスですが、お客さんの気持ちに着目すれば「好意」でもあるし、商品とお客さんの関係に着目すれば「約束」であるともいえます。
2、「ソーシャルグッド」の潮流
「ソーシャルグッド」とは、「社会を良くする行い」です。ブランド論には2010年ぐらいから、この潮流がみられるといわれています。「ソーシャルグッド」は収益追求と社会貢献がリンクしているのが特徴です。今や、ブランドが世の中に存在する意義を証明しなければお客さんからの共感と尊敬は得られません。
「ソーシャルグッド」の事例として、P&Gの生理用品ブランドAlways が2014年に開始した「Like a girl」キャンペーンでは、大人の女性と10歳の女の子に、それぞれ「“女の子”らしさ」を表現してもらいました。このとき大人の女性は弱々しいぶりっ子的な動きをし、10歳の女の子は全速力で走って女の子らしさを表現しました。
これは、女性に古い先入観に縛られて自信喪失することよりも、自信をもってありのままでいることを後押ししています。あえて「Like A Girl」というネーミングを用いて、“女の子らしさ”の意味の再定義に取り組んだこのキャンペーンは、ブランディングにソーシャルグッドが練り込まれたコミュニケーションだといえます。
なぜブランドがソーシャルグッドに向かうのか?それはひとえに、消費者のマインドが「エシカル消費」つまり環境問題や社会問題の解決に貢献できるものを買いたいという方向に向かっているからです。ソーシャルグッドはブランドへの好意を高め、手を伸ばしやすくする側面も多分に含んでいます。
商品そのもので差別化することが困難で、商品機能に立脚する情緒価値でも違いがつくれない中では、ブランドの存在理由や目的(最近では「ブランドパーパス」といいます)こそが違いを生み出す、そんな状況ともいえるでしょう。
ブランドとは、「らしさ」の記憶が人を動かすと考える戦略論です。その記憶を、どのようにお客さんの頭の中に連想構造として残すかがポイントになります。また、ブランドはロジックとマジック、つまり論理と感情・感覚の両面からつくりだされます。ブランドづくりについては、「体験」「接点」「パーソナリティ」の重要性が高まっています。