真の愛情としつけ~「スミレのように踏まれて香る」より
大掃除の季節。「断捨離」で要らない物(ときめかない物)を、躊躇なく捨てることが良しとされている風潮があります。一方で、「もったいない」という言葉通り、捨てることに罪悪感を抱く人もいます。たしかに、捨てる作業をすれば、余計な物は買わなくなるので、結果無駄のない暮らし方になるのかもしれません。しかし、捨てた後にしばらくして、手放したことを後悔することもあります。ノートルダム清心学園理事長である渡辺和子氏の著書に気になる一文を見つけましたので2015年の締めくくりとしてご紹介します。(「スミレのように踏まれて香る」渡辺和子著)
■「結局、親の問題ですね」という発言に、一様にみんながうなずく。ある教師は子どもの祖母からの電話で「先生、すみませんが、次の参観日にでも、母親に物を大切にするよう注意してやってくださいませんか」と頼まれたという。子どもが物をなくしても、「だめね」と口先で叱りながら、すぐに新しく買い与える母親に、本当の愛情があるといえるのだろうか。そんな甘い世の中を子どもたちに教えておいてよいのだろうか。■月に行けるようになったからといって、私たちひとりひとりの生活が、地球上の各種の重力を脱して、自由自在になると思うのは大間違いである。あのテレビの中継を見て、宇宙飛行士の人間としての意志の使用が、いかに制限され、コンピューターの言いなりになっていたか、また、そうなるべく完璧の訓練が施されていたかに気づいた人は、この壮挙を手放しで喜んでいられなかったはずである。今後の科学技術文明の世界に、人間らしく生きていくことの難しさに、心を痛めたはずである。■姑根性を発揮して、自分たちの育った時代の苦労を、今の若い者は知らないと厭味を言っていたのでは教育にはならない。要は、しつけ全般についていえることであるが、親の欲求不満、自己満足を離れた、子どもへの真の愛情からほとばしり出るしつけ、教育が必要なのだ。新しいものを次々に買い替えていく。そこには、経済の高度成長は生まれても、「手あかにそまったもの」「思い出のこもったもの」に対する、しみじみとした愛情は育つまい……(略)。
特筆すべきは、この著書は、40年も前に出版されたものを改題し文庫化されたものです。40年の間に社会は大きく変わりましたが、当時の問題意識は今でも十分通用するものと思われます。2016年、「小さな幸せ」が溢れる年になりますように!