F&Aレポート

戦争をやめた人たち 1~戦場でほんとうにあった奇跡のような実話

 梅雨が明けて夏が来ると、ほどなくして8月6日 広島平和記念日・広島原爆忌を迎えます。 世界中の人が平和を願いながらも、未だ戦争を始める人間がいます。ここに一冊の絵本をご紹介します。(戦争をやめた人たち ・・・1914年のクリスマス休戦・・・鈴木まもる 文・絵)

今から100年以上前の1914年、7月。
ヨーロッパをはじめ、多くの国を巻き込む戦争が始まりました。
第一次世界大戦です。イギリス、フランス、ロシア、日本などの連合国軍と、ドイツ、オーストリアなどの同盟国軍が戦ったのです。
戦争が始まったばかりの頃、飛行機は敵の様子をさぐるためだけのものでした。戦いは、おもに大砲や銃をうったり、剣でさしたりといった、兵士どうしがぶつかりあう、厳しいものでした。

国と国の境には鉄条網がはられました。敵軍と一番近くで対戦する最前線では、銃で打たれないよう「ざんごう」という、隠れる場所を掘り、相手と打ち合いました。食べ物も少なく電気もないので、冬になると、寒く厳しい毎日が続きました。それは同盟国軍も、連合国軍も同じでした。

その夜も、イギリス軍の兵士は、一日中続いたドイツ軍との銃の打ち合いで、疲れ果て、ざんごうで休んでいました。若い兵士がいいました。
「今日も一日、おわったね」「ああ、疲れたな」ひげの兵士が答えました。
「家に帰りたいなぁ」「いつになるやら…」
「帰ったら、またみんなでサッカーしたいなぁ」
「うん?なんだ?」その時、若い兵士は、なにか、人の声が、聞こえたような気がしました。
「なにかきこえる。なんの音だろう」若い兵士は、ざんごうから顔を出しました。

それは、むこうのドイツ軍のざんごうから聞こえる歌声でした。ドイツ語なので、なんといっているのか、わかりません。でも、そのメロディはわかります。
クリスマスの歌、「きよし このよる」です。ドイツ軍のざんごうを見ると、焚き火の周りで、
ドイツ軍の兵士が歌っているようです。

「今日は12月24日、クリスマスイブなんだね」
「そうだったな。ドイツにもクリスマスがあるんだなぁ」
「こっちも歌おうか」
「いいのか?そんなことして」
「かまうもんか」若い兵士は、空に向かって歌い始めました。
「き~よ~し こ~のよ~る……」「ほ~しは~ ひ~か~り~……」
ひげの兵士も、周りの兵士も歌い始め、声は、しだいに大きくなっていきました。

ドイツ軍のほうも、こちらが歌っているのがわかったようで、パチパチと、拍手の音が聞こえてきました。次に「もろびと こぞりて」を、ドイツ軍が歌い始めました。
若い兵士たちは、拍手をして、自分たちも歌い始めました。
言葉は違いますが、同じメロディーなので、一緒に歌えます。
声は大きくなり、終わると、拍手も大きくなっていきました。
今度は「みつかい うたいて」を、若い兵士が歌い始め、皆が歌いだすと、ドイツ側から、ドイツ語の「みつかい うたいて」が聞こえてきました。
両方のざんごうから、暗い夜に、いろいろなクリスマスの歌が流れていきました……。

翌日、12月25日、クリスマスの日の朝。
ドイツ軍のざんごうを見張っていた兵士が叫びました。「敵だ!」
若い兵士は、とびおき、銃を構えました。    (次号につづく)

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