F&Aレポート

「マジヤバイっす」は、敬意と親しみの言葉だった…「ス体」

「マジヤバイっす」は、敬意と親しみの言葉だった…「ス体」

 東京2020オリンピックのスケートボードの解説が話題になりました。

「やべぇ~、半端ないっす」
「鬼ヤバ」
「地獄」
「ゴン攻め」
「ビッタビタで、きましたね~」
「おお~、アツイ!」
「肌感でいうと…」
「かっけえ」

 これらはすべて、スケートボードの解説をされたプロスケーター瀬尻稜さんの言葉です。標準語で冷静にやりとりするアナウンサーとのギャップが面白く、ネットですぐにトレンド入りしました。

瀬尻氏   「練習でも一人だけゴン攻めしてて~」
アナウンサー「ゴン攻めとは?」
瀬尻氏   「攻めるってことです」「ゴン攻めは、なんか攻めてたっすね」

* 「ゴン攻め」とは「ガン攻め」よりも強い表現です。「ガンガン行く」よりも、もっと強いのが「ゴン」。強さを示す比較級で「ガンガン」よりも強いのが「ゴン」。この場合は、「積極的な攻め」の最上級なので「ゴン攻め」になるとのこと…。
ちなみに「鬼ヤバ」も、「ヤバイ」の最上級らしいです。「鬼」をつけると、後につづく言葉を強調する言葉になります。「鬼強い」(鬼のように強い)「鬼アツ」「鬼かわいい」など。「超」「マジ」よりも、最も強い意味で使われるのだそう。

●「あざっす」「そうっすね」などの「ス体」とは

「新敬語『マジヤバイっす』」の著者 中村桃子氏によれば、社会言語学の視点からいうと、最後に「っす」をつける言い方は、ここ何十年かで若い世代に広まったもので、著者は「ス体」と呼んでいます。「だ」でも「です」でもしっくりこないときには、「っす」なのだとか。

 著者によれば、〝ス体〟は新しい言葉ではなく、1954年10月12日の『朝日新聞』に掲載された『サザエさん』にも登場しているといいます。

 浪花節をうなり続けて仕事を終えた左官屋さんが、仕事が終わってもうなり続け、お茶を持ってきたフネに「仕事はすんだすが、節がのこってたもんで」と照れながら言い訳するというシーンがあります。

 そこには促音である「っ」がない「すんだっすが」でないことから、「っす」は「す」よりも新しい表現と捉えられています。

 そもそも「っす」は、「?です」を縮めた言い方です。即ち「ですます」の丁寧語というわけです。しかし、この丁寧語は丁寧に表現できるけど、相手を遠ざけてしまう欠点もあります。

 親しい先輩に「そうですね」はよそよそしい、「そうっすね」という「ス体」を使えば、親しみと敬意の両方を表すことができるというものです。ただし、これらは身内(内輪)では通じても、外部の人には機能しないという一面もありましたが、最近は、「ス体」が内輪の世界の敬語に留まらず、テレビCMなどを通じて、新しい男性像、女性像の表現に用いられているというのです。「マジかんべんっすよ」と、軽いノリでいう男性に、「今日も充実っす」と楽しそうに言う女性など。

 このムーブメントに嫌悪感を抱く人も少ないかとは思いますが、本来、江戸時代には「です」という語尾も、遊里で使われた俗語でした。それが近代では、丁寧語という地位におさまり、知的で洗練された表現とされています。

 言葉は時代とともに変化していくもの。「っす」も市民権を得る日が遠くない未来にあるのかもしれません。

 ただこの「ス体」、今現在は誰でもどこでも通用し、かつ失礼のない表現とは言い難いでしょう。「失礼な表現」「見下されている」「品がない」といった意見も多数見られます。言葉は諸刃の刃。くれぐれも「要注意っす」。

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