F&Aレポート

甲子園春夏連覇を遂げた野球部監督の「人間の根っこ」を強くする魂の教育とは?

甲子園春夏連覇を遂げた野球部監督の「人間の根っこ」を強くする魂の教育とは?

1分間スピーチで”大六感”と”表現力”を養う
■2010年、沖縄興南高校野球部を、史上6校目の甲子園春夏連覇の偉業を達成させると同時に、沖縄県勢初の夏の甲子園優勝に導いた我喜屋優監督(現在は学校法人興南学園 理事長、校長も兼任)は、部員達に毎日「1分間スピーチ」をさせることで有名である。同校の優勝インタビューの際、キャプテンのしっかりとした言葉は記憶に新しい。
■この1分間スピーチ訓練で部員達は”第六感”を養い、”表現力”を高めることができるようになるという。野球部の訓練で、なぜ「1分間スピーチ」なのか。我喜屋優氏の著書「逆境を生き抜く力」より、そのねらいと手法を紐解いてみたい。

1.「朝の15分散歩」で五感を磨けば「言葉」が得られる
 野球部の寮生に課せられているのが、毎日の「朝の散歩」。これは心のトレーニングのひとつ。
 散歩といっても、集団でだらだらとしゃべりながら歩くのではない。散歩という字のごとく「散って歩く」。一人ひとりバラバラになって、思い思いのコースを歩いてみる。これが散歩である。
 早朝散歩の真のねらいは、「五感を働かせる」訓練のため。毎日の散歩を通して、見る(視角)、聞く(聴覚)、嗅ぐ(嗅覚)、触れる(触覚)など、必ず何かを感じてこいというわけだ。
 毎日少しずつでもいい。「きれいだな」「おいしいな」「いい音だな」「面白い形だな」という、五感を働かせてほしいのだ。
 なぜ五感を育むのか。五感を育むことが野球を強くする近道だからだ。

2.五感を鍛えれば第六感がひらめく
 人生で大切なことのひとつに「気づき」がある。朝の散歩で心を集中して歩いていれば、気づかなかったことに気づけるようになる。
 ピンポイントでものを感じるように心を集中させる。そうすれば、必ずどんなことにも新しい発見がある。他の人が気づかないことに気づき、ほかの人が感じないことを感じる。五感を研ぎ澄ませることで、それができるようになる。五感を活性化させていれば、自然と第六感が働くようになる。
 第六感が働くということは、いざというときに正しい反応や判断ができるということだ。つまり勝負勘が身に付いてくるということだ。
 たとえば私たちは道を歩いているとき、まさか敵に襲われるとは想像さえしない。これを「慢心の第六感」と呼ぶ。一方、野生動物は、常に警戒しながら生きている。常に五感を研ぎ澄ませているから、いざというときに第六感が働く。敵がしかけてくる一歩も二歩も手前で反応して、対応することができるのだ。
 野球というのは、野生動物のように第六感を働かせなければならないことの連続である。今は起きていないが、次の瞬間に起こることに対して、身体を反応させなければならない。この第六感が働くか働かないかで、試合の結果は大きく変わる。
 これは野球に限ったことではない。仕事や勉強でも同じだ。
 五感を磨くことで、野球も上手くなるし、勉強も仕事もはかどる。どんなことにも心を集中して取り組めば必ず結果が出る。だからこそ、朝の散歩をきっかけにして、24時間、小さな事にも慢心せず、五感を使うことを意識してほしいのだ。

3.「1分間スピーチ」で「伝える」ことが楽になる
 散歩から帰って体操を終えたら、抜き打ちで指名して「1分間スピーチ」をさせる。
 朝の散歩は漫然と歩くだけではない。情報収集、つまりなんらかの取材をしなければならないのだ。取材対象はなんでもいい。散歩の途中に電柱が何本あったかでもいいし、車と何台すれ違ったかでもいい。毎日の散歩の中で、日々の小さな変化に気づくことが大切なのだ。スピーチの1分は長い。いきなり指名されて、上手く話せる人は大人でもなかなかいない。
 しかし、思っているだけでは相手には伝わらない。言葉にして口に出すことが大切なのだ。話す訓練をすることで、言葉の持つ力を感じてほしいのである。そして、自分を表現する術を磨いてほしいのだ。
 スピーチでの話題づくりのために、生徒たちは自然と新聞を読むようになった。テレビを見て話題をつくるのは簡単だが、新聞を読んで話題をつくるのは難しいものだ。文章から状況を想像して、自分の中で解釈して言葉にする。これは表現力を養うのに非常にいい訓練になる。
 相手に伝えよう、自分を表現しようと思うだけで、同じ桜の花を見ても、何かを感じよう、気づこうとする心が芽生える。これは野球でも社会でも、とても大事なことだ。「今日は試合があるから、みんな頑張ろう」これなら誰でも言える。
 しかし、「がんばろう」なんて口先だけで言っても、あまり意味はない。スピーチを続けていくうちに、「相手チームの投手はこういう癖があるから、こういう対策をとろう」と話せるようになる。みんなのために情報を伝えることができるのだ。