前回のレポートで、「宝くじが当たり、5億円を手にしても、今の仕事を続けるか?」という問いかけとともに、「生活のために仕方なくしている仕事」は、今後AIに代替される。誰もしたくない仕事はAIに任せて、自分がやりたい仕事を追求するのが、これからの働き方なのだという内容をご紹介しました。「AI失業」を闇雲に恐れるのではなく、自分の個性を活かせる仕事こそが、AIと共存できる未来だといいます。「10年後のハローワーク(川村秀憲著)」をご紹介します。
「属人化こそ勝ち組」の時代が到来「名前で仕事を受けられる人になる」
「属人化」をしてはいけない、「特定の仕事を特定の人にくっつけてはいけない」というのが組織でした。誰でもさまざまな仕事をカバーできるようにしておけば、交代で職務を共有でき、退職や病気などで人員が欠けても、仕事が止まるリスクを最小限にできます。仕事が属人化していればいるほど、仕事が止まるリスクは高いのです。
ところが、今後は属人化ができない仕事こそが生き残り、誰でもできる仕事ほど、AIに侵食されていくといきます。すなわち、今後は「自分にしかできない仕事」の価値が高くなるでしょう。もしも子供に教えるとしたら「指名で仕事を受けられる人になりなさい」と言えばいいわけです。
これは「いい大学を出ていい会社に入る」こととは相性が良いとは言えません。これまでの大企業、良い組織は、その多くが高い組織力でできていて、仕事が属人化しないよう努め、誰が抜けてもサステナブルであることが重要だからです。
「経営者マインド」「意思決定できる力」を取り戻せるか?
問題は、属人化を排除する組織の文化や風土に慣れてしまった人が、自分の中に隠し持っていた「経営者マインド」「意思決定力」を取り戻せるかです。「あなたしかこの仕事はできない」「あなたにこの仕事を任せたい」という言葉を聞けるかどうかが、これからの大きな分かれ道になるでしょう。
「ワンオペジョブ化」するオフィスワーク
従って、大企業で働く人の数は減っていくでしょう。同じ価値を生産するのであれば、今までのような従業員数は必要なくなるからです。今後は、大きな指示を出す経営層、その意を受けてAIを動かす層だけが残るようなかたちが想像されます。ごく近い将来、「これはAIにやらせて」という指示が飛び交うことになるはずです。
すでに日本の大手企業の74%がリスキリング(異なる職務・新分野のスキル獲得)の導入を始めていることを考えると、近い将来ではなく、もう始まっているともいえるでしょう。一方で、小さな企業や個人事業主のような働き方は、反比例的に増えていくでしょう。
なぜなら、こうした業態の中では、意思決定が重要になるからです。「自分で決めて、人とは違う価値が出せる」形態しか、ビジネスは成立しなくなります。大企業で働けなくなっても、「指名」で仕事が来る小さな企業や個人で成功するチャンスはあるはずです。
スナックのママはAI化耐性が高いワケ〜共感力
AIによって大きく働き方が変化するであろう職業には、医療や司法の世界が含まれます。なぜなら、膨大な前例や現時点でのデータをもとに病名や判例を見つけ出すような作業は、AIにも十分代替可能ですし、むしろAIに任せた方が、正確性が高くなるからです。
そうした状況の中で、体の不調や慣れない司法的な手続きを前にして不安を感じている人が選ぶ医師や弁護士はどんな人なのでしょうか。これは結局「親身になって話を聞いてくれる人」ではないかと思うのです。
司法手続きやアドバイスの質がAIによって高度に均質化、標準化されるのなら、最終的に医師や弁護士が、自分の意思を汲んでくれる人物なのかどうか。アナログ的な感性ながら、そういった信頼性が、その仕事で生き残れるかどうかの分かれ目ではないでしょうか。
同じことが、スナックのママなど、人の感情を相手にする職業にも言えます。生成AIが、入力された人や内容に応じて気の利いた話や会話ができるのなら、完璧に代替できるかもしれません。一方で同じ空間で生身の人に話を聞いてほしい、アドバイスや想像もしなかった答えが欲しい、時には真剣に叱って欲しいといったニーズは、なくなるとは考えにくいでしょう。そこには、代替不可能な価値があると思われるからです。人が最終判断で参考にするのは単に正確に整理された情報ではなく「共感」だと考えられるからです。