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コロナ禍による金融リスク [2020/8/20]

2020年当初から始まったコロナ(Covid-19)禍により世界中の国で公的資金を使った様々な支援策が打ち出され、実行されています。また、中央銀行が混乱する市場を買い支えることで安定化が図られています。その結果、世界経済は安定化したように見えますが、コロナ危機はまだしばらく続きそうです。そして、このような財政政策も同じように続くと想定されます。そうなると、すでに巨額になり、さらにこれからも膨らんでいく可能性が高い公的債務は市場や実体経済にどのように影響するのか。今までは、巨額債務を抱える国はあまり多くなく、特定の国の問題でしたが、今や大半の国が同じような状態になっており、どこかの国の金融がパニックに陥れば、世界中が大混乱になる可能性もあると危惧しています。非常に難しい問題だと思いますが、このリスクはどのように認識しておくべきものなのでしょうか。


IMFによると2020年の先進国の公的債務残高は国内総生産(GDP)の128%と、第二次世界大戦直後を抜いて過去最大となる見通しです。コロナ対策として巨額の財政支出を迫られる一方、企業収益の悪化や個人所得の減少によって税収が落ち込み、財政赤字を穴埋めするため国債が増発されるからです。

各国政府が発行する赤字国債は、量的緩和政策として中央銀行が最終的に購入するため、今のところ金利上昇にはつながる気配はありません。また、日米欧の中央銀行は、3月のコロナショックで金融市場が機能麻痺に陥ったことから、それ以降は国債だけでなく一般企業が発行する社債も積極的に購入して資金調達機能が損なわれないようバックアップしています。

量的緩和政策に対する評価は未だ定まっていません。ただ、現時点で懸念されるのは、中央銀行の独立性が十分に確保されていない新興国で量的緩和を導入する動きが広がっていることです。コロナという緊急時対応としては致し方ない面があります。しかし、量的緩和による財政赤字の穴埋めが長期にわたって続いた場合、その国の金融財政システムに対する信頼が低下して、通貨価値の暴落を引き起こしかねません。そうなればドル建て債務残高が膨らむ一方、原油価格や一次産品価格の下落と相まって経常収支赤字が拡大し、外貨準備が枯渇して、返済期限が到来した対外債務を返済できなくなる事態が想定されます。

既にアルゼンチンは長引く景気低迷に新型コロナが追い打ちをかけ、5月に期限が来た一部国債の利払いをせずデフォルト状態に陥りました。今年の債務不履行はレバノン、エクアドルに続き3か国目です。英調査会社の分析によると南アフリカ、インド、ナイジェリア、ブラジルといった経済規模の大きい国もデフォルトリスクがかなり高く、トルコ、インドネシア、メキシコもそれに近い状況にあるといわれています。

さらに心配されることは新興国の民間債務の増加です。新興国企業の国際市場からのドル建て借り入れは2009年の1兆6000億ドルから2019年末には3兆8000億ドルに増えています。20年後半だけで2000憶ドルの債務返済の期限が来るといわれていますが、コロナの感染再拡大をきっかけに金融環境が再び悪化すれば企業のドル建て債務の借り換えで問題が生じかねません。そうなれば、新興国向け融資を増やしてきた先進国の銀行は大きな痛手を被ることになります。

元イングランド銀行総裁のマーヴィン・キング氏は、「緩和的な金融環境の下でコロナ危機前から債務を危うい水準に膨張させていた企業や政府は世界的に多く、今後数年で数多くのデフォルトが発生し、それがやがて次の金融危機の引き金になるだろう」と警告しています。今は、有効なコロナワクチンが早く開発され、この予言が実現しないことを願うばかりです。


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