Seijiの金融情報
1月29日に日銀がマイナス金利政策の導入を発表してから4か月余りが経過しました。しかしながら、円高・ドル安圧力は依然として弱まらず、株価は浮揚力を失ったままボックス圏でのもみ合いが続くなど、この政策は目に見みえる効果を発揮していません。
現在のマイナス金利政策は、簡単に言えば、金融機関が一定額以上の現金を日銀に預けると、その超過分について0.1%の手数料を取られるということです。金融機関は、日銀に現金を滞留させることができなくなるので、積極的に貸し出しを行うようになり、世の中にお金が回るようになるという理屈のようです。確かにマイナス金利政策によって住宅ローン金利が大きく低下しましたので、借り換えをされる方には大いにメリットがあります。しかし、1〜3月の住宅ローンの新規貸出額は前年同期を3.5%下回っていて、住宅投資の活性化には残念ながらつながっていません。
一方、金融機関の収益にマイナス金利政策が与える影響は甚大です。この政策によって期間10年までの日本国債の利回りがマイナスになり、それに連れて金融機関の貸出金利が大きく低下しています。しかし、預金金利の低下は小幅にとどまり、結果的に金融機関の収益性のバロメーターである預金と貸出金の金利差(利ザヤ)は急速に縮小しています。これは、預金金利をマイナスにすることができないからです。
金融機関は、貸出金利息の減少をカバーするため、株式や外債などの有価証券投資を増やしています。確かに株式は配当利回りが2%台と高いのですが、価格変動リスクが大きく相場も低迷しているので多額の資金を投資することができません。消去法的に米国債などの外債が有価証券投資の中心となっています。昨年末にFRBが利上げを開始したにもかかわらず、米国の10年国債利回りは、1月末の2.00%から6月9日には1.69.%と、逆に低下しています。これは日本の金融機関がマイナス金利政策導入後に米国債を大量に購入しているからです。
しかし、外債での運用も限界に近づいています。というのは、金融機関が外債に投資する場合は通常為替リスクをヘッジしますが、足許のヘッジ・コストは1.30%近辺まで上昇しています。そのため米国債に投資しても、0.39%(=1.69%−1.30%)の利ザヤしか得られません。もし、米国債の利回りがさらに低下したり、ヘッジ・コストが一段と高くなれば外債も投資妙味がなくなってしまいます。
黒田総裁の任期が到来する2018年4月までは、マイナス金利政策が撤回される可能性は低そうです。もしも円高・ドル安が一段と進行する局面であればマイナス幅がさらに深くなることも想定されます。しかし、いつかマイナス金利政策からの出口を模索する時期がきます。その際、もし出口戦略に失敗して金利が急騰すれば、多くの金融機関で預金と貸出金の利回りが逆転する逆ザヤに陥ると懸念されます。もしかすると、そうした事態になれば金融機関の再編が加速すると金融当局はひそかに期待しているのでしょうか。
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