F&Aレポート
F&Aレポート 2021年7月10日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
ことばのちから「言葉は思考の土台」7
1949年に出版された、ノーマン・ルイスの名著に「Word Power Made Easy (語彙力を身につけるのは簡単だ)」というものがあります。彼は、アメリカの作家、文法家、辞書学者であり、言語に関するスペシャリストで、多くのベストセラーを残しています。前述の本の中にこんな一節があります。
『いつも適切な言葉を使っているだろうか?
それを正しく発音したり、書いたりできるだろうか?
稚拙な表現を避ける術を知っているだろうか?
恥ずかしい間違いをおかさず文法的に正しく話せるだろうか?(中略)
ひとつでも改善したい点があるなら「Word Power Made Easy」は必携だ。(中略)
本書で学習すれば、
・ 自信を持って話し、書けるようになる
・ 効率のいい効果的な言葉の読み方が身につく
・ 理解が早くなる
・ 交際範囲が広がる
・ 収入アップにつながる』
語彙力を身につければ、自信を持って自由自在に読み書きでき、話しができるようになり、交際範囲が広がり、収入アップもするということで、すなわち、語彙力によって一人の人間の運命が変わるということのようです。(「語彙力がないまま社会人になってしまった人へ」 山口謡司著)今回はよく聞くけど、意味がわかっている人は少ない語彙をご紹介します。
- 「相殺」そうさいか、そうさつか
「相殺」は「そうさい」と読むのが正しいのですが、最近は「そうさつ」と読む人の方が多くなってきています。「殺」という漢字を「さつ」と読む場合は「殺す」という意味を表し、「さい」と読む場合は「減らす」ということを意味するのです。「そうさつ」と読むと、「お互いが殺し合う」という意味になりますが、「そうさい」と読むと「二つのものが競合して互いにその持ち味や特色を損ねてしまう」という意味になります。ビジネスでは、お金の話でよく出てくる言葉です。 - 「代替」しろがえ、だいかえ、だいたい、だいがわり
この熟語には四つも読み方があります。ひとつずつ意味も違います。
「しろがえ」:品物を売って金銭に換えること、物々交換
「だいかえ」「だいたい」:他のもので代えること。ビジネスでは「だいたい」が頻繁に使われます。「代替案を出しなさい」など。実は「だいかえ」は間違った読み方ですが、「だいたい」というと、「大体」と意味を間違える可能性があります。「だいかえ」なら間違えにくいのです。間違った意味にとられないためには前後の言葉で補う必要があります。
「だいがわり」:世代交代の意味。または、取引相場で相場が値上がりし、値段が今までの円位からその上の円位にかわること。ただこの相場の「代替」は「代替り」と書かれるようになり、さらに現在ではコンピューター処理のため、ほとんど使われなくなりました。 - 「汎用」ぼんようではなく「はんよう」
「ぼんよう」と読む人が増えていますが、「はんよう」が正しい。同じつくりの「凡例」についても「はんれい」が正しい読み方です。「ぼん」は呉音、「はん」は漢音の読み方です。一般的に古い仏教の言葉で使われる言葉は「ぼん」と読まれることが多く、新しい思想や科学技術などで使われる場合は「はん」と発音される傾向にあります。「汎用」は広くいろいろなことに用いること。「凡例」は、書物のはじめに「おおまかに、だいたいの」の意で、編集目的や方針、使い方などについて書かれているということです。
「凡」に「さんずい」がつくと水が溢れることを意味し、より広い範囲で、より積極的な意味になります。
「凡」が「おおよそ」という意味であるのに対し、「汎」は「あまねく」「もれなく」「すべからく」「あふれる」という意味になります。 - 「斟酌する」お酒に関する言葉
「忖度」とセットで覚えておきたい言葉です。「しんしゃくする」は、「斟酌しない批評」「未成年であることを斟酌する」などと使われます。意味は「相手の事情や心情を汲み取ること」また、「汲み取って手加減すること」から「遠慮する、言動を控えめにする」などです。「斟酌」の「斟」も「酌」もお酒に関する言葉です。本来は瓶に入ったお酒を柄杓で汲み出すことを意味し、相手にどれだけ酒を注ごうかと考えることに端を発します。
「忖度」は「相手の心を推し量る」ことに対して、「斟酌」は「相手の心を推し量った上で、そこに処置を施す、対応する」という行動が入っています。