F&Aレポート
F&Aレポート 2021年6月20日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
アフターコロナの働き方を考える〜「セルフ・キャリアドック」のすすめ 1
「セルフ・キャリアドック」とは、企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、面談とキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組みや、そのための企業内の「仕組み」のことです。
職業能力開発促進法が2016年に改正され、企業は企業目的達成のために、必要な従業員の能力向上に責任を持ち、従業員のキャリア開発を支援することが義務付けられました。
アフターコロナの働き方を考える中で、「セルフ・キャリアドック」の導入は、従業員の離職を防ぎ、モチベーションを高め、能力開発を支える機会となり、さらなる企業の発展を促進するといわれています。経済産業省が推奨する「セルフ・キャリドック」を2回にわたりご紹介します。
1、従来の人材育成と「セルフ・キャリアドック」のちがい
従来の人材育成施策は企業の視点で、組織にとって必要なマインドやスキル、知識の獲得を目指すという観点から行われてきました。これに対して、セルフ・キャリアドックは、企業・組織の視点に加えて、従業員一人ひとりが主体性を発揮し、キャリア開発を実践することを重視・尊重する人材育成・ 支援を促進・実現する仕組みです。
この仕組みでは、中長期的な視点で従業員一人ひとりが、自己のキャリアビジョンを描き、その達成のために職業生活の節目での自己点検や実践に活用する取り組みプロセスを提供することになります。
2、「セルフ・キャリアドック」の導入目的と効果
- 従業員にとっては、モチベーションの向上とキャリアの充実
- 企業にとっては人材の定着や活性化を通じた組織の活性化
- 新卒採用者の離職率が高いという課題に対して
新卒採用者へのリアリティショックや、働く作法を含めた定着支援・働き方支援がセルフ・キャリアドックの重要な支援。セルフ・キャリアドックにより、新卒採用者等に対して、仕事への向き合い方・取り組む意欲などのマインドセットと、キャリアパスの可能性の明示などを通したキャリアプラン作りの支援により、職場への定着や仕事への意欲を高めていくことが期待されます。 *キャリアパスとは、個々の社員のキャリア形成や昇進に必要な仕事の経験 - 育児・介護休業者の職場復帰率が低いという課題に対して
育児・介護休業者の職場復帰を円滑に行うことがセルフ・キャリアドックの重要な支援。セルフ・キャリアドックにより、不安を取り除き、仕事と家庭の両立に関わる課題の解決支援を行うとともに、職場復帰のためのプランを作成することで、職場復帰を円滑に行うことが期待されます。また面談では、職場復帰に関する直近のプロセスだけでなく、復帰後中長期的な視点に立った、ライフキャリア作りの支援相談も重要。 - 中堅社員のモチベーションが下がっているという課題に対して
中堅社員を活性化していくことがセルフ・キャリアドックの重要な支援。年功序列型の昇進・昇格が保証されにくい仕組みの中で、管理職に昇進しない従業員が著しく増加する傾向が顕著にみられるようになってきました。モチベーションの維持・向上において、昇進・昇格や昇給を中心としたキャリアアップの方策が機能しにくくなり、むしろキャリア充実に視点をシフトした対策が求められるようになってきています。ところがこの変化に、組織の人事施策や個人の働くマインドが充分に対応しきれず、中堅社員のモチベーションが低下してきています。セルフ・キャ リアドックは、長い職業生活の前半戦を終え、これから後半戦を迎える踊り場、中間点に立っている中堅社員に対し、自己の持つ多様な能力を棚卸しし、その能力の発揮を通して、モチベーションの維持・向上を図り、キャリア充実の実践度合いを把握する一連の支援策といえます。 - シニア社員の長い生涯キャリアの設計とその実践という課題に対して
長い生涯キャリアを有意義に送るには、仕事で成長を実感し充実感をもって仕事ができることが重要です。今後、シニア社員の活性化と能力発揮を促す研修とキャリアコンサルティング面談を連動させた施策の提供はセルフ・キャリアドックの大切な活動であり、シニア社員のモチベーションの維持・向上にとって重要な活動です。セルフ・キャリアドッグを活用し、自分のキャリア開発に当事者意識と責任をもつ仕組みをシニア期とその準備期において確立することは、少子高齢化社会を生き抜く上で重要です。