F&Aレポート
F&Aレポート 2017年1月30日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
過疎から生まれた偉大なポン酢〜馬路村のゆず栽培にみるものづくりへの情熱
昨年10月に訪問した高知県馬路村(レポート2016年10月20号に紹介)。ここは、かつて林業で栄えた人口約1,000人の過疎ですが、現在はゆずの生産、加工、流通を手がけ復興を果たした村として全国から注目されています。この村で生まれたポン酢「ゆずの村」が、このたび日本経済新聞何でもランキング「ブランドポン酢」で、堂々第一位に輝きました。
1、年賀状に込められたゆずへの執念 目指すは2020東京オリンピック
時を同じく、馬路村の東谷理事長(馬路村農業共同組合)から年賀状をいただきました。
新年おめでとうございます 今年も宜しくお願いします 平成29年元旦郷土の「ゆず」の栽培から、数々のゆず加工品を生み出し、今なお未来に挑戦し続ける姿が垣間見えます。この情熱が「ゆずの森」をランキング1位にいたらしめたのでしょう。
植物を育てることが、子供の時から好きで馬路に帰った20歳からゆずを作りました。
その時代、化学系の薬剤で防除しましたので綺麗なゆずを作り、東京築地市場に随分出荷しました。
時代が安全を求める時代となり、有機栽培で作れないかと15年前から挑戦しました。求める美しいゆずは有機ではたやすくありませんでした。その挑戦が昨年やれると思えるようになりました。
しかし、ゆず園への道が崩壊のため収穫や運搬ができませんでした。
それでもできる自信はより膨らみました。
山の崩壊はゴルフよりゆずの手入れをしろという忠告だったような気がします。
中途半端なゆずを作ると、ゆずに失礼である。
有機で美しいゆず作りを極めることと、2020年、私の作ったゆずがオリンピック選手の料理の食材に使って頂くことを目標に!
「老舗の流儀 虎屋とエルメス」(新潮社)には、もとエルメス本社副社長の齋藤峰明氏と虎屋の社長である黒川光博氏の「すべては職人の経験からはじまる」という、以下のような対談があります。
齋藤 エルメスでは毎年、テーマを設定してものづくりをしているのですが、「地中海」がテーマの年がありました。フランスの文化はラテン文明を発祥としていて、ルーツは地中海にあるので、そこをもう一度理解しようということになった。それで、職人たちにギリシャのデルフォイに行って、文明の源泉に触れてもらうことにしたのです。
その結果、「色」の発想が、実に魅力的で豊かなものになりました。たとえば、ブルー系は、エーゲ海、アドリア海、コートダジュールなど5?6種類。グリーン系は、オリーブの葉の色からインスピレーションを得たものが6種類くらい。ブラウン系は、地中海に面した土の色という風に、幅も奥行きも素晴らしいものが生まれてきました。
こういう発想は、見本を見ながら色を選ぶやり方からは、絶対に出て来ないもの。職人が現地に行って、直に触れ、そこからヒントを得なければできないことなのです。
銀座のエルメスに、お客様が手帳のカバーを買いにきて「どの色にしようか」と迷っていたとき、販売員が5?6種類をお見せしながら、「これがエーゲ海のブルー、これが地中海のブルー、これがアドリア海のブルー」と説明したら、エーゲ海という言葉に心動かされた様子だった。実はその方、新婚旅行でエーゲ海に行って特別な思いがあったとのこと。喜んで買ってくださったそうです。
このように、職人の思いがものに表現され、それがお客様に伝わっていくことで、幸福な関わりが生まれる。ものを介して、職人とお客様の思いがつながると言っていいのかもしれません。
黒川 職人とお客様の気持ちをつなげるために、職人に色々な経験をしてもらうことは、やはり大事ですね。20年ほど前、ある職人に、何年かかってもいいから日本中の和菓子屋さんを回って勉強してこい、といって送り出したのです。初めはいやいや出かけて行ったように見えたのですが、色々なお菓子屋さんを巡るうちに、どんどん変わっていったのです。最初のうちは「おいしい」「まずい」と味でお菓子を見て回っていたのですが、続けるうちに「初めての地を訪れると、まず図書館や郷土資料博物館に行くことにしました。その町がどのように成立し、どんな時代を経て今日があるのかを知ることによって、そのお菓子が受け入れられた理由がわかるので」と言うようになったのです。これはすごいなと思いました。どこの地域のどんなお菓子屋さんでも、菓子の存在価値は土地とのつながりがあることを、身を以て理解してくれたのが何より嬉しかったですね。
齋藤 そういった職人の経験は、売れ筋を追うだけでは得られない価値のあるものです。そういう積み重ねがあってこそ、長きにわたって愛される本物が存在し続けてきたのだと腑に落ちました。本物とは、文化の壁を越えて受け入れられるものだと思うのです。 (齋藤氏と黒川氏の老舗対談は次回レポーに続きます。)