F&Aレポート
F&Aレポート 2022年1月20日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
組織にも個人にも、メリットしかない健康経営のススメ 1 「プレゼンティーイズム」と、「アブセンティーイズム」
「健康経営」とは、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法」です。★「健康経営」のメリットを一言で言うと、労働生産性の向上、採用や離職防止への効果、国民医療費の適正化も期待できます。★「健康経営」の推進には莫大な経費がかかるわけではありません。★with/afterコロナ時代の企業経営に欠かせない視点のひとつとして、「健康経営」の取り組みをご紹介します。まずは「健康経営」のポイントを挙げてみました。
- 従業員の健康増進等にかかる支出をコストではなく「健康投資」として捉える
- 生産年齢人口(OECDでは15〜64歳)の減少と従業員の高齢化、人手不足等の社会的課題を背景に健康経営の普及が進んできた
- 新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、企業経営にとって今後一層重要になる
- with/afterコロナのもと、健康経営の目的・内容・手法等が深化していく中で共に考えていくべき価値のあるもの
- 「日本再興戦略2016」において健康経営優良法人認定制度が開始。これにより「健康経営」の推進と効果を社内外にアピールできる機会となる。
1、企業にとっての目的
労働安全衛生法第一条には「この法律は労働基準法と相まって、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする」とあります。
法令遵守に努めるだけでなく、経営者と従業員が協力して健康経営を実践することにより、企業活動を円滑にススメ、組織活性化、生産性向上を目的としています。
2、従業員にとっての目的
従業員が主体的に健康経営に関わっていくことで、自身の健康管理を通じた健康増進、活力向上はもちろん、業務への好影響、働きがい、生きがいの醸成につながります。
3、国が健康経営を普及・啓発する目的
国は人生100年時代を見据え、健康寿命の延伸を目標に掲げ、全世代型社会保証の構築を目指しています。国民医療費の適正化を図り働き盛り世代の健康増進をどのようにつくるかが課題です。
<中小企業の人手不足対策として>
リクルートへの好影響〜職場環境の整備
健康経営が注目されている社会的背景に、中小企業の慢性的な人手不足があります。「人・物・金」の経営資源の中でももっとも重要で代替えが難しいのが「人」。中小企業は、熟練の技術を活かした製品、地域の実情に合致したきめ細やかなサービスなどを提供して差別化をはかっています。その上、中小企業では従業員一人ひとりの業務範囲が広く、代わりのきく人材がほとんどいないため、人手不足は深刻な問題になります。
採用についても、大卒求人倍率をみると従業員300人未満の中小企業では3倍以上で推移しています。つまり採用したい学生数に対し3分の1以下の応募しかない状況が続いているのです。
慢性的な採用難を解決するためには、職場環境を整え「従業員を大切にする会社」「働きやすい職場」「雰囲気の良い会社」をアピールすることが有効と考えられます。これらは従業員の定着率にも功を奏します。社内外に「従業員の幸せを大切にする会社」というメッセージを発信することで健康経営の取り組みを促し、新たな人材を呼び込むことも期待できます。
<労働生産性の向上>
プレゼンティーイズムと、アブセンティーイズム
従業員の健康状態と生活習慣は労働生産性と密接に関わっています。健全で働きやすい環境を整えることは、従業員のワーク・エンゲージメント(やりがい、モチベーション)や生産性の向上に欠かせません。また、従業員の健康に寄り添うことは、離職による生産性の低下防止にもつながります。たとえば、体調不良による労働生産性の損失を考えるとき、なんらかの病気によって会社を休む状況を「アブセンティーイズム」といい、出勤はしているものの体調が優れず生産性が低下している状態を「プレゼンティーイズム」といいます。
欧米を中心とした多くの研究によれば、「プレゼンティーイズム」によって企業は見えない労働損失、経済的損失が発生しており、その額は医療費や病気休業にかかる費用よりも大きいとされています。日本でも現在、プレゼンティーイズムによる労働損失の研究が進められており、アブセンティーイズムよりプレゼンティーイズムの損失の方がボリュームが大きいことが示されています。 (次号につづく)