F&Aレポート
F&Aレポート 2020年7月30日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
「シンギュラリティ」は絶対来ない! 2
「AI vs 教科書が読めない子どもたち」(新井紀子著 東洋経済新報社)では、AIの得意分野は、論理、確率、統計の3つ。逆にAIの決定的限界は「意味」であると解いています。多くの仕事がAIに代替される将来、読解力のない人間は失業するしかない。しかし、日本の中高生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できないのだそうです。著者は、この課題を解決しなければ、世界は「AI世界恐慌」という最悪のシナリオになると述べています。
1、10〜20年後になくなる職業
- 電話販売員(テレマーケター)
- 不動産登記の審査、調査
- 手縫いの仕立て屋
- コンピューターを使ったデータの収集、加工、分析
- 保険業者
- 時計修理工
- 貨物取扱人
- 税務申告代行者
- フィルム写真の現像技術者
- 銀行の新規口座開設担当者
- 図書館司書の補助員
- データ入力作業員
- 時計の組立、調整工
- 保険金請求、保険契約者代行者
- 証券会社の一般事務員
- 受注係
- (住宅、教育、自動車ローンなどの)融資担当者
- 自動車保険鑑定人
- スポーツの審判員
- 銀行の窓口係
- レクリエーション療法士
- 整備、設置、修理の第一線監督者
- 危機管理責任者
- メンタルヘルス、薬物関連ソーシャルワーカー
- 聴覚訓練士
- 作業療法士
- 義肢装具士
- 医療ソーシャルワーカー
- 口腔外科医
- 消防、防災の第一線監督者
- 栄養士
- 宿泊施設の支配人
- 振付師
- セールスエンジニア
- 内科医、外科医
- 教育コーディネーター
- 心理学者
- 警察、刑事の第一線監督者
- 歯科医
- 小学校教師
2013年に私は窓口係より先に半沢直樹がAIによって代替される、という予測を立てました。『半沢直樹』は銀行員が銀行の不正を暴くドラマでした。半沢直樹は「やられたらやり返す、倍返しだ!」の決めセリフで、一躍時代の寵児となりました。
半沢直樹の仕事は、取引相手の返済能力の信用度を審査することで、個人融資ならば担保物件の価値、年収や雇用主である企業の事業規模、年齢や家族構成までさまざまな情報を考慮し、データに基づいて融資の条件を計算し、融資の可否を判断します。時には融資がこげついてしまうこともあります。
このような仕事、特に担保に基づく住宅ローンなどの個人融資は、ビッグデータによる機械学習ができるようになったAIは得意分野になるはず。こう考えました。銀行には過去の融資についての教師データを大量に持っていて、答えは融資するか否か、つまりイエスかノーかのどちらかだからです。半沢氏の仕事はいずれAIに代替され、胸のすくようなあの「倍返しだ!」の台詞は、数年後にはもう聞けなくなってしまう可能性が高いと思います。
3、AIにできない仕事ができる人間がいない「AI世界恐慌」
近未来にAIに人間の仕事が代替される時代がやってきても、新たなイノベーションが生まれ、仕事を失った労働者は新しい産業に吸収されていくはずだとの楽観論も見られます。もしも新しい産業が生まれるとしたら、それはAIにできない仕事でなければなりません。その仕事がAIにできる仕事なら、失業者を労働力として吸収することにはならないからです。新しい産業が提供する仕事は、人間にしかできない仕事でなければなりません。
AIで仕事を失った人は、誰でもできる低賃金の仕事に就職するか、失業するかの二者択一を迫られる。それは日本だけでなく全世界で起こりうること。そのあとにやってくるのは「AI世界恐慌」でしょう。そのシナリオはなんとしても避けなければなりません。「残る仕事」の共通点は、コミュニケーション能力や理解力を求められる仕事です。つまり高度な読解力と常識、加えて人間らしい柔軟な判断が要求される分野です。