F&Aレポート

F&Aレポート 2020年1月10日号     Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.

アップアップ「読解力」1 〜敬体と常体〜

 昨年末、国際学力調査「PISA(ピサ)」で日本(15歳)の読解力が、世界15位に転落したというニュースがありました。上位は、1位中国、2位シンガポール、3位マカオ、4位香港とアジア勢が占めています。

 「読解力」とは、「語彙力」「表現力」「文章力」「理解力」「行間を読む力」などの結集した力。即ち「コミュニケーション力」です。

 今、どこの企業でも求められる「コミュニケーション力」を、一歩掘り下げて「読解力」を鍛えることから見直してみませんか?「『頭がいい』の正体は読解力」(樋口裕一著 幻冬社新書)をご紹介します。

<問題1>敬体を常体に、常体を敬体に改めてください。ただし、「終止形+です」の形は避けてください。

  1. これからも現在の状況が続くのでしょうか。
  2. そんなことはまだ経験したことがありません。
  3. その店のまかない飯はおいしかった。
  4. 昨日見た景色は美しかった。

◆常体と敬体は、日本語の文体の基本です。

「そうだ」と、「そうです」は、会話でも文章でもまったく雰囲気が異なります。  たとえば、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」は「ございます」といった敬体で書かれていますが、あれが常体だったら、まったく別の作品になるでしょう。  常体は、会話の場合だと「タメ口」ということになります。  報告書でもレポートでも、文章を読み慣れ、書き慣れた人であれば、敬体と常体をごっちゃにすることはないでしょう。しかし、文章に無関心な人は、無意識のうちに両者が入り混じったりしています。この使い分けは文章力の最低限をクリアしているかどうかの基準になります。

◆ 「終止形+です」について
「楽しいです(楽しかったです)」「美味しいです(美味しかったです)」というような形は、話し言葉として使う分にはまったく問題ないのですが、あらたまった文章などでは避けるのが望ましいです。

 なぜなら「今日は楽しかったです」「夕飯は美味しかったです」などの表現は、文章にすると子どもじみた文体になっていまうからです。

 「楽しく感じられました」「美味しくいただきました」などの言い回しにするほうが、社会人らしい表現になります。

 ちなみに、「終止形+です」は、昭和中期までは文法的には誤りとして強く非難されていたということです。

<解答例>
  1. これからも現在の状況が続くのだろうか。
  2. そんなことはまだ経験したことがない。
  3. その店のまかない飯はおいしいと思いました。/その店のまかない飯をおいしくいただきました。/その店でおいしいまかない飯を食べました。
  4. 昨日見た景色は美しいと思いました。/昨日見た景色は美しく感じました。/昨日、美しい景色を見ました。
<解説>
「終止形」で終わるものを敬体にするときには、「と思いました」または「のです」などとすると、印象が変わります。  いずれにせよ、(3)「おいしかったです」と書くのと、「おいしくいただきました」と書くのとでは、知的レベルの差が感じられます。これを意識して文章を書くと、レベルが高まります。口頭で話をするときも、少し意識すると、格調高い言葉になるでしょう。

◆ 「クレーマーの原因は読解力不足?」 クレーマーが増えていると言われています。それには、読解力のない人も発信する手段を得たこと、以前は片隅で押し黙っているしかなかった人が権威に対して発信しても良いという意識を持つようになったことなどが原因として挙げられますが、もうひとつ、読解力の低下という問題もあるのではないでしょうか。逆にいえば、読解力をきちんとつけ、文章を読み取れるようになれば、状況も人の心も今より読み取れるようになり、多くの人が周囲と健全なコミュニケーションが取れるようになるのではないでしょうか。読書というのは、まさしくコミュニケーションの一つの原型を形作っているともいえるものです。