F&Aレポート

F&Aレポート 2018年9月30日号     Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.

課題解決2〜可能か不可能か。「改革」とは

■ 可能か、不可能か

通信販売会社のA社は、顧客満足度の向上をめざし、全社をあげてクレーム減少のための対策を行い始めました。

 クレーム内容を詳細に調べて、再発防止を考え実行することを始めたのです。現場レベルで週1回のミーティングを行いながら、「発覚したミスについては、原因をきちんと調べて再発しないよう対処する」「ミスに至らなくても、ミスを起こしそうな案件を洗い出して、予防対策を取る」といったことを続けています。

 田中さんがセンター長を務める物流センターでも、地道な取り組みを続けています。その甲斐もあってか、作業におけるミスも減り、クレーム件数の低下と顧客リピート率の上昇という形で、その効果が表れてきました。

 かつては10%しかなかったリピート率が、15%まで上がってきたのです。田中さんにしてみれば、部下はよくやっているし、ねぎらってやりたいと思うのですが、社長はそうは思っていないようです。社長は「リピート率30%を目指せ」と言うのです。

「よその通販業者は70%を達成しているところもあるんだ。なぜうちでできない?」というのが社長の言い分です。

 70%を達成している企業とは、顧客層や購買特性、商品の性質が違うため、同じ土俵では考えられないと説明するのですが、社長どうしても納得しないのです。

 この社長の意見について、あなたはどのように思うでしょうか。

(1)社長の要求水準は高過ぎる、現状からみて可能な範囲で目標を設定し直すべきだ
(2)確かに高い要求水準だが、達成できる方法があるかどうかは、積極的に考えてみるべきだ
(3)いきなり30%というのは厳しいが、今のやり方で地道に積み上げていけば必ず達成できる数字である

<答 (2)>一見ムリと思える目標であっても、まずはやる方法がないかを考えましょう。発想を転換して実現するのが「改革」です。

(参考図書:問題解決トレーニング 西村克己著 イースト・プレス
■「改革」とは何か?

1.「聖域なき構造改革」の現実

 改善に比べ、改革とは「創る問題」を解決する活動です。改善と大きく違うのは、まず「何があるべき姿か」を考えるところからはじまるということにあります。

 現状とは大きく方向転換した姿を描き、そこへ至るまでを解決すべき課題を洗い出し、最終目標を達成するためのシナリオを描いて実行するというプロセスを踏みます。

 改革は、あるべき姿が決まっているから、問題点は目の前に見えていることが多くあります。しかし改革の場合は「あるべき姿」を決めない限り、問題点を洗い出すことも進めることもできません。

 政治の世界でも「聖域なき構造改革」というフレーズがありましたが、あるべき姿を明確にしないまま、改革に着手することはできないのです。

2.改革は、この手順で

 改革は「やってみなければわからない」という無責任な進め方では成功しません。羅針盤を持たないまま航海をするようなものです。成功にたどりつくまでに払う犠牲(コスト、時間、人材など)は、バカにならないでしょう。

 解決策を決めるにあたっては、意思決定が欠かせません。意思決定とは、ただ単に決めること、判断することではありません。やり直しがきかない資源配分を、覚悟を決めて決定することです。

<テーマ設定>→<あるべき姿の明確化>→<現状分析>→<代替案の立案>→<意思決定(代替案の評価と決定)>→<解決策の実施と効果確認>

3.50%を目安に

 改善が継続的、積み上げ型の活動であるのに比べて、改革は最初にあるべき姿を明確化しておき、そこに向かっての現状のしくみを変えていく活動です。

 パラシュートのように着地点をあらかじめ見越しておいて、一気に解決を図ろうとするものです。全社で方向を変えようとするときなどは、改革型で進めることが欠かせません。

 改革は50%という数値が目標になります。コスト半減、リードタイム(発注から納品までにかかる時間のこと)半減、売上倍増、人員半減などを目指すものです。「できるかできないか」という議論でなく「どうやったらできるのか」を考えるのが、改革の発想なのです。

 改革は数値目標だけで達成しようとしてもムリがあります。現場が、自分たちの枠組みの中だけでやろうとしても、手をつけられること(改善活動)には限界があります。その限界を越えるためには全社での動きが必要です。

4.改革はシナリオ命

 今回の設問の社長も、言っていることには間違いないのですが、数値目標だけでなく、全体としてどう進めるのかの道筋を示す必要があります。「よそでもできているではないか」と叱咤するだけで、部下がどこからか解決策を持ってきたり、考えつくわけではありません。改革における解決策は、他社の事例をそのまま自社に当てはめることができるわけではありませんから。マネをすれば成功するとは限らないのです。企業によって(目的によって)とるべき道筋はいくつもありえます。どの道筋を選ぶかというシナリオ決定は、経営トップ自身にしかできないことなのです。