F&Aレポート
F&Aレポート 2018年4月30日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
絵本「あなのあいたおけ」 感情労働に疲れた人へ 一人一人に役割があり、あなたは必要とされているのだと、教えてくれる絵本
顧客などの満足を得るために自身の感情をコントロールし、常に模範的で適切な言葉、表情、態度で応対することを求められる労働のことを「感情労働」といいます。
「肉体労働」「頭脳労働」につづく第3の労働形態として、米国の社会学者が提唱しました。具体的には、旅客機の客室乗務員をはじめとする接客業、営業職、医療職、介護職、カウンセラー、オペレーター、教職などが挙げられますが、近年ではあらゆる職種で感情労働を強いられるケースが増加傾向にあると言われています。
感情労働による疲労が蓄積すると、仕事の価値や、自分の存在意義を見失うこともあります。「こんなことをして、なんの意味があるのか」「無駄なことをしているんじゃないか」そんな思いにとらわれ続けると、パフォーマンスや生産性が下がり、周囲の人とのコミュニケーションも悪化しがちです。
13歳から世界中で講演を続けているインドのプレム・ラワット氏著 絵本「あなのあいたおけ」は、一人一人に役割があり、必要とされていることを静かに教えてくれます。感情労働は、ストレスという負の側面ばかりが目立ちますが、誰かの喜びや楽しさにつながり、社会の役に立っているということも気づかせてくれます。「あなのあいたおけ」(文屋)を、中略しながらご紹介します。
むかし 丘の上に庭師が暮らしていました。彼の家には 美しい庭がありました。
彼は毎日 草花にやる水をくむために丘の下の川までおりていきました。
二つのおけに、水をいっぱい入れて天秤棒でかつぎ、丘の上までゆっくり登っていきます。
たいへんな仕事ですが 彼はその道のりをとても楽しんでいました。
おけたちは自分達が役にたっていると思うと嬉しい気持ちでいっぱいになるのでした。
春のある日。庭師は足を滑らせてころんでしまいました。
おけの一つが石にぶつかり小さなあながいてしまいました。庭師が 水をくみ直して歩きはじめると あなのあいたおけからポツ ポツと 水がこぼれました。
くる日もくる日も庭師は丘への道を登りました。
そのたびに あなのあいたおけからはポツ ポツと水がこぼれました。
ある晴れた日のこと。
水でいっぱいになったおけが あなのあいたおけに こう言いました。
「キミは まったく役に立っていないね」
「役に立っていないって どういう意味?」
「キミにはあながあいている だから 庭まで水を運べないじゃないか」
そう言われて あなのあいたおけは とても悲しい気持ちになりました。
あなのあいたおけは 返事をすることも 笑顔になることもできません。
夏になりました。庭師が心を込めて育てた庭では 美しい花が咲き
緑の葉は 日の光を浴びて キラキラと輝いていました。
庭師が水をやっているとき あなのあいたおけは思いました。
「親方は ボクが水を運べなくて がっかりしているんだろうな」
あなのあいたおけは こらえきれずに泣き出してしまいました。
庭師がやってきて聞きました。「どうしたんだい?」
「ボクにはあながあいています。なんの役にもたっていません」
庭師は目を閉じて おけの話しをじっと聞き ゆっくりと話しはじめました。
「おまえにあなを見つけたとき わたしは道に花の種をまいたんだ。
おまえにあながあいているおかげで わたしが水を運び上げるたびに
花の苗に水をやることができるんだよ」と 庭師は言いました。
「おまえは わたしたちが 毎日歩いている坂道を見たことがあるかい?」
そう言われてあなのあいたおけは 顔をあげて通ってきた道のほうをながめました。
赤い花 黄色い花 青い花 坂道にはたくさんの花が咲いています。
おおぜいのミツバチがうれしそうに花に集まっています。小鳥やチョウたちは
いい香りのする花に囲まれてとても楽しそうです。
あなのあいたおけは それまでずっとうつむいていたので こんなにたくさんの花が咲いていることに気がつかなかったのです。
おけたちは うっとりしてその景色に見とれていました。
水が入ったおけは はずかしそうに あなのあいたおけに
「ごめんね」と言いました。
次の日の朝 おけたちは仲良く庭師と水をくみにいきました。
あなのあいたおけは ほほえみながら ポツ ポツと いつものように
路に咲く花たちに水をやりつづけました。