F&Aレポート
「健康経営」従業員の健康と企業の生産性は両立する
1.「健康経営」とは
「健康経営」とは、企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな効果が期待できるとの基盤に立って、健康管理を経営視点から考え、戦略的に実践する事を意味しています。
従業員の健康管理・健康づくりの推進は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。
従業員の健康管理者は経営者であり、その指導力のもと健康管理を組織戦略に則って展開することが、今後の企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。
2.アブセンティズムとプレゼンティズム(absenteeism/presenteeism)
もともと「アブセンティズム」は、欠席を意味する語ですが、欠勤、休職、遅刻、早退など、業務ができない状態をいいます。メンタルヘルスや健康管理といえば、従来はこれらの予防や対策がメインでした。しかし、最近では「アブセンティズム」よりも、「プレゼンティズム」の方が問題視されています。
「プレゼンティズム」とは、出勤していても心身の健康上の問題により、十分にパフォーマンスが上がらない状態を意味します。
たとえば、花粉症や風邪を患った場合、作業効率は5%下がることが知られています。また、頭痛、貧血、倦怠感など慢性的な体調不調は、年間のパフォーマンスを低下させます。
しかし、最も深刻なプレゼンティズムは、睡眠障害や心の病など、ストレスや生活習慣から生じるものです。これらは、アクシデントやミスの発生率を1.4倍にし、将来の認知症リスクを2.5倍以上増加させるというデータもあります。また、従業員の心身の不調は、次のような企業リスクがみられます。
- 従業員の健康障害は生産性を低下させる→アブセンティズム、プレゼンティズム
- 従業員の健康は職場環境によって影響を受ける→安全配慮義務
- 業務起因性による健康障害は、労働災害+民事訴訟→高額な損害賠償請求
- 従業員の健康障害は会社法を適用→経営責任
- CSR,CSVの視点から企業価値の喪失
従業員の心身の健康に影響する要因は以下の通りです。
ハラスメント/職場の人間関係/コミュニケーション/職場の文化や風土/職場レイアウト/作業環境/作業方法/疲労回復を図る施設及び設備/職場生活で必要な施設及び設備/労働時間/仕事の量と質/職場の組織及び人事労務管理
4.健康管理は使用者に課せられる性質のもの(神戸地裁姫路支部H7.7.31判決)
労働者が現に健康を害し、そのため当該業務にそのまま従事するときには、健康を保持する上で問題があり、もしくは健康を悪化させるおそれがあると認められるときは、速やかに労働者を当該業務から離脱させて休養させるか、他の業務に配転させるなどの措置を執る契約上の義務を負うものというべきであり、それは、労働者からの申し出の有無に関係なく、使用者に課せられる性質のものと解するのが相当である。
5.「健康経営銘柄」と「健康経営優良法人〜ホワイト500〜」(経済産業省)
経済産業省は、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に取り組んでいる企業を大企業・大規模医療法人では「健康経営銘柄」、中小企業・中小規模医療法人では「健康経営優良法人?ホワイト500?」として選定、公表することで、企業の健康経営の取り組みが株式市場において適切に評価される仕組みづくりに取り組んでいます。
健康経営の具体的な進め方については、本レポートであらためて詳しく述べますが、まずは、「経営者の健康経営宣言」からスタートします。それは「会社にとってなぜ、社員が健康である必要があるのか」を明らかにすることです。さらに、現状把握→健康づくり計画を立てる→社員に働きかける→取り組みを評価というように、活動を維持させる組織体制を整えます。「健康経営」は、生産性だけでなく「労働の質」「商品の質」を高めます