F&Aレポート

F&Aレポート 2015年11月10日号     Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.

あるタクシー乗務員の話し 〜マナーは人のためならず?

 私が接遇研修をしているタクシー会社の乗務員Kさん(50代半ばぐらい)のお話です。

 Kさんは2年前、接遇研修を受けました。そのときは、会社の命令とはいえ、なぜマナーや接遇を学ぶ必要があるのかわからず、いやいや受講したそうです。

 Kさんは、「研修を受けている時間に車を走らせれば、一人でもお客さんが乗ってくれるかもしれないのに。お客さんが乗車すれば売上になる。真面目に研修を受けても売上は上がらない。時間の無駄だ」と、思ったそうです。

 受講態度に、そんな気持ちがもろに表れていました。椅子に斜めに腰掛けて足を組み、腕組みしていました。(あまりの態度の悪さに、私もKさんのことは憶えていました)。

 私は先日たまたま、そのKさんが運転する車(タクシー)に乗ることになったのです。乗車するなり、Kさんはバックミラー越しに私を見て言いました。「先生の研修を受けて、ワイシャツの第一ボタンを留めるようになったんですよ。第一ボタンを留めると襟元がくずれないことに気づきました。今は毎日ボタンを留めてネクタイをしています」と。

 Kさんは、それまでいわゆる「不良乗務員」だったそうです。タバコを吸いながら運転したり、投げやりな態度で接客したり。会社の上層部からも再三注意を受けていました。

 そんなことで、当時は社長はじめ、会社の管理者と口を聞くのもいやで、遠ざけていました。それが、接遇を意識するようになって、自分から社長に話しかけるようになり、そうしたら社長からも声をかけてもらえるようになったというのです。今は職場のリーダーとして会議にも参加し、積極的に提案をしているそうです。

 Kさんは、「この年になってようやく、自分が変われば周囲も変わるということを実感しました。今は、仕事だけじゃなくてすべてがいい感じでまわっています」と、言いました。

 今のKさんの身だしなみは、きちんとしています。昔の「不良乗務員」の面影はありません。Kさんは50歳を過ぎて、接遇をきっかけに人生が変わったと言いました。「接遇は人のためならず」とも言えるかもしれません。