F&Aレポート

F&Aレポート 2015年9月20日号     Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.

「名月」にちなんで、「月」のことばと歌に見る日本の感性

 9月は、一年のうちで最も「月」が美しい月です。日本人は万葉の昔から、月に親しんできました。その証拠に、月を詠んだ和歌は数知れずありますが、「星」や「日」(太陽)を詠んだ歌は極端に少ないのです。今回は、名月の季節にちなんで「月」のことばと歌をご紹介します。情感あふれることばは、知性、品性、感性を感じさせます。日常会話にさりげなく使ってみたいですね。(参考図書「言葉の風景」)

1.「秋の日は釣瓶落とし(つるべおとし)」
 最近は釣瓶井戸を見かけることは皆無に等しいので、「釣瓶」が何であるかを伝えるのが難しいのですが、釣瓶は井戸水をくみ上げる桶のことです。「秋の日は釣瓶落とし」と言いますが、垂直に早く落ちることから、秋の日の暮れやすいさまをいうようになりました。

 九月の古名を「長月」といいますが、「夜長月」の略と考えられています。

 「月影(つきかげ)」とは、月の光で映る物の影のことで、「月光」とあてる場合もあります。月が出る時に空が白む月影を「月代(つきしろ)」ともいいます。春の朧月に対して、秋は「名月」です。

「月の宴」といえば、月を眺めて賞する月見の宴。「月の客」といえば、月見の人。

「月の鏡」は満月。「月の氷」は氷のように澄み渡って見える月。そのほか、「月の雫」=露、「月の剣」=三日月、「月の眉」=三日月、「月花(つきはな)」=寵愛するもののたとえなど数多あります。

 「陽炎、稲妻、水の月」とは、水面に映った月のように、いずれも見ることはできても、実際には手にすることができないもののたとえです。

 月はたったひとつなのに、季節や時間、見る場所や心模様によって千差万別の表情を見せます。決して「月並」ではありません。月並は古くは「月次」と書かれ、毎月という意味でした。月並とは毎月や月例の意味で、転じて平凡で陳腐なことをいうようになりました。命名者は正岡子規で、伝統的な旧式俳句を「月並俳句」と呼んで批判をしたのが最初だそうです。

2.「月」を詠んだ歌
「熟田津(にきたつ)に 船(ふな)乗りせむと 月待てば、潮(しお)もかなひぬ 今は漕(こ)ぎ出(い)でな」

●熟田津で船を出そうと月を待っていると、いよいよ潮の流れもよくなってきた。さあ、今こそ船出するのです。(額田王 万葉集)

「月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ 我が身ひとつの 秋にはあらねど」
● 月を見ると、きりもなく物事が悲しく思われる。私一人だけに訪れた秋ではないのだけど。(大江千里 古今集)

「今来むと 言ひしばかりに 長月の有明の月を 待ちいでつるかな」
●「今すぐに参ります」とあなたが言ったばかりに、9月の夜中をひたすら眠らずに待っているうちに、夜明けに出る有明の月が出てきてしまいました。(素性法師 古今集)

「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半(よは)の月かな」
●久しぶりに会えたのに、それがあなただと分かるかどうかのわずかな間に慌ただしく帰ってしまわれた。まるで雲間にさっと隠れてしまう夜半の月のように(紫式部 新古今集)

「秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさ」
●秋風に吹かれて横に長くひき流れる雲の切れ目から、洩れてくる月の光の、澄みきった美しさといったらどうだろう!(左京大夫顕輔 新古今和歌集) ※今年の仲秋の名月は9/27(日)です。「月見る月」の月にパワーをあやかりたいですね!