F&Aレポート

F&Aレポート 2015年5月20日号     Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.

職場のパワーハラスメント対策 1

1.生産性低下、イメージダウン、企業の信頼を損ねるパワーハラスメント
 職場のパワーハラスメントは、近年、都道府県労働局や労働基準監督署等への相談が増加を続け、ひどい嫌がらせ等を理由とする精神障害等での労災保険の支給決定件数が増加しているなど、社会的な問題として顕在化してきています。
 平成24年度に厚生労働省が実施した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」によると、従業員規模が小さい企業ほど、パワーハラスメント対策が進んでいないという課題も明らかになりました。

 職場のパワーハラスメントが与える影響は深刻です。職場は、私たちが人生の中で多くの時間を過ごす場所であり、様々な人間関係を取り結ぶ場でもあります。そのような場所で、パワーハラスメントを受けることにより、人格や尊厳を傷つけられたり、仕事への意欲や自信をなくしたり、また、こうしたことが心の健康の悪化につながり、場合によっては休職や退職に追い込まれたり、生きる希望を失うことさえあるのです。

 職場のパワーハラスメントは、受ける人だけの問題ではありません。周囲の人達がそうした事実を知ることで、仕事への意欲が低下し、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼす可能性があります。また、パワーハラスメントを行った人にとっても、社内での自分の信用を低下させかねず、懲戒処分や訴訟のリスクを抱えることにもなり、自分の居場所が失われる結果を招いてしまうかもしれません。さらに、企業にとっても、業績悪化や貴重な人材の損失につながるおそれがあります。 また、企業として職場のパワーハラスメントに加担していなくても、問題を放置した場合は、裁判で使用者としての責任を問われることもあり、イメージダウンにつながりかねません。

2.パワーハラスメントの定義
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を拝啓に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

職場内での優位性…パワーハラスメントという言葉は、上司から部下へのいじめ・嫌がらせをさして使われる場合が多いですが、先輩・後輩や同僚間、さらには部下から上司に対して行われるものもあります。「職場内での優位性」には、「職務上の地位」に限らず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性が含まれます。

業務の適正な範囲…業務上の必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたりません。例えば、上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し、業務上の指揮監督や教育指導を行い、上司としての役割を遂行することが求められます。職場のパワーハラスメント対策は、そのような上司の適正な指導を妨げるものではなく、各職場で、何が業務の適正な範囲で、何がそうでないのか、その範囲を明確にする取り組みを行うことによって、適正な指導をサポートするものでなければなりません。 ★具体的なパワーハラスメント事案が発生した場合に、それがパワーハラスメントであったかどうかを判断するには、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうか等、詳細な事実関係を把握し、各職場での共通認識や裁判事例も参考にしながら判断します。

★パワーハラスメントの行為類型

行為類型具体例
1、身体的な攻撃暴行・障害
2、精神的な攻撃脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3、人間関係からの切り離し隔離・仲間外し・無視
4、過大な要求業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、 仕事の妨害
5、過小な要求業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
6、個の侵害私的なことに過度に立ち入る

職場のパワーハラスメント対策については、次回は裁判事例などをご紹介します。