F&Aレポート
F&Aレポート 2014年8月30日号 Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.
「トロフィー・ワイフ」〜いつか笑顔で羽ばたくために
政府の「女性の活躍推進」方針をはじめ、ここへ来て「女性の働き方」が注目されています。しかし、いくら社会的な環境が整っても、家に帰ると掃除や食事の支度、育児などの仕事がドーンと待っていて、女性だけがその全てを担うような状況では、「女性の社会参加」は実現しません。「女性と仕事」の問題は、女性だけでなく、男性にも大いに関係のあることです。まして経営者なら、仕組みやハードだけでなく、ソフト面においても、フォローできなければ、今に男性からも女性からも総スカンを食ってしまいます。「PHPくらしラク〜る9月号」に掲載されたエッセイをレポートにし、経営者、管理者へのエールとしたいと思います。
「トロフィー・ワイフ」という言葉があるらしい。容姿端麗で稼ぎのある奥さんという意味だという。そんな女性を奥さんにするのは、男にとってトロフィーのように誇らしく、「彼女はトロフィー・ワイフだね」というような使い方をするのだそうだ。 今や男の究極の理想は、美人でスタイルがいいだけではなく、それプラス「稼げる女性」ということらしい。正直、「自分の姿を見てから言ってよ!」と、ツッコミを入れたくなる言葉だが、「稼げる」なんて、これまで女性が男性に求めた条件ではないか!男性側が女性にこれを求めるなんて、今の時代を象徴しているように感じる。
あるエコノミストは「専業主婦という言葉も、事務職という言葉もなくなる」という。
労働環境の変化により年収格差が広がり、これまで多数を占めていた年収400万円程度の中流クラスが極端に減少し、年収200万円台か、それ以下。または、年収500万円台かそれ以上の層に分散されるという。
そうなると、富裕層はさておき、お父さん一人の収入ではとても女房、子どもを養っていけない。従って、女性は働きに出ざるを得ないということになり、専業主婦という仕事は極めて少なくなるというのだそう。
女性が自分らしい人生を送る為に「仕事」が重要な要素になるのは間違いないだろう。
あらゆる可能性を考えた
私の夫は10年前、3人の子どもと、立ち上げて間もない会社を遺し、癌で他界した。それまで、都合のいいときだけ夫の会社を手伝う気楽な専業主婦だったので、それはもう、世界が一転してしまった。
もともとキャリア志向など皆無だった私が大黒柱になる。さらに、3人の子育ても一人で?と、まさに私の人生史上、未曾有の出来事だった。このときほど私は「生きる」ということを考えたことはない。子ども3人と私がどうやって生き延びていくか。生きる為にはまず最低限のお金が要る。闘病生活の末に資産は尽きていた。学費、光熱費、家のローンだって残っていた。
夫はSE(システム・エンジニア)としてコンサルティングをしていたが、そんな技術が私にあるはずもなく、同等の能力のある人を雇う資金もなかった。じゃあ、会社を畳んでどこかに就職するか。それも考えたが、資格や能力があるわけでなし、普通に就職できても子ども3人を養うには不十分だった。
毎日、末の子を保育園に送り迎えしながら、昼間は夫の会社の雑用整理などして、私には何ができるのか、自分の強みはなんなのかを考えた。過去の経験や、得意なことや好きなことなど。あらゆる可能性を考え、それらを仕事として成り立たせる方法を誰かに相談したり自分で調べたりした。そうすると、本当にわずかではあるけど、少しずつ仕事らしき形になっていって今に至っている。
私の今の仕事は、マナー・話し方指導などを主として、キャリア・コンサルタントとして、女性のキャリアアップやワークライフバランスを指導させていただくこともある。いずれも私の過去の仕事や経験から派生しているもので、「人と企業を元気にする」という創業時の精神だけは引き継いでいる。
決断する楽しさを味わう今
主婦から今の立場になって一番変わったことは、「主人に聞いてみます」「社長に了承を得ます」という言葉が使えなくなったこと。
「自分で決断し、自分で責任をとる」。決断したら、その決断が「最善だった」と信じて前に向いて進むしかない。後ろを振り返ると前に進めなくなることも学んだ。
昔は何一つ、自分で決められない性格だったが、今となっては「決断できる楽しさ」を味わっているような気がする。
決断できる=「選べる自由がある」ということ。機内サービスで「ミート・オア・フィッシュ?」と、聞かれるのと、「ミート・オンリー」と言われる違いだろうか。仕事や人生の決断はそんなに単純ではないけれど、選ぶ自由を知ったら、選べない不自由さに戻りたいとは私は思わない。
もちろん選びたくても選べない環境もある。そんなときは甘んじて受け入れる。環境はいつか変化する。そのときに思いっきり羽ばたけるように、ひっそりと準備をしてもいいのではないか。
女性の人生は変化が多い。結婚、出産といったライフイベントによる人間関係の変化。育児、介護による仕事や生活の変化など。女性は変化の中で成長し続ける生き物なのだ。変化は痛みを伴うこともあるけれど。「変化は脱皮」。さなぎから美しい蝶になる。他人と比べる必要なんてない。それぞれの成長曲線がある。「トロフィー・ワイフ」なんて賞賛されなくとも、それぞれ「トロフィー」に向かって頑張る女性は、いつか必ず笑顔で羽ばたき、人生の質を向上させることができるのだから。
[Presented by Aquarius Intelligence Institute Inc.]