F&Aレポート
ニッポンの10年後 2 分野別50のキーワード
復興から始まる10年先の「スマートニッポン」。東日本大震災の復興プロセスは、そのまま「日本復興」のキーとなる。なぜなら、被災地の復興は「人口減少」「産業流出」「エネルギー問題」「超高齢化」「政治の空洞化」「官僚の弱体化」といった日本の課題をはらみ、同時にこれらを解決していくことでしか復興はなし得ないからである。日本の10年後をリアルにイメージし、方向性と今、各自が成すべきことを模索したい。前回に続き、日経ビジネス「ニッポンの10年後」〜経済、技術、生活の"ここが伸びる"から特集する。今回は分野別のキーワードを注目してみたい。
1.IT 教訓を生かし津波や停電対策
★ブレイン・マシン・インターフェース(次世代UI)、ワイヤレス給電、NFC、フリークリング、M2M、IPv6、IEEE 802.11ac/ad、音声アシスタント技術、ECHONET Lite
<ブレイン・マシン・インターフェース(次世代UI)>
脳波の強弱などを利用してコンピューターを動かす技術。キーボード入力やタッチ操作が不要になるため、PCやスマートフォンの利用シーンや、ユーザー層の拡大が期待できる。このほかの次世代UI(ユーザーインターフェース)として、ジェスチャーや視線を利用する技術もある。
<フリークリング>
データセンター内のIT機器を、外気を利用して冷却する仕組みのこと。国内外の一部のデータセンターで導入が始まっている。従来のデータセンターでは消費電力の半分以上を空調機が占めるといわれる。これを大幅に削減できる。
2.クルマ
★EV、急速充電、高速車載LAN、PHV(プラグインハイブリッド)、FCV(燃料電池車)、障害物認識技術、パーソナルモビリティー、自動ブレーキ、次世代電池、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)
<パーソナルモビリティー>
1人乗りの低速移動体のこと。これまでの2輪車や自動車と違い、歩行者と同様の生活シーンで利用することを想定している。シニアカーに代わる高齢化社会への対応として注目されている。トヨタ自動車の「i-REAL」やホンダの「UNI-CUB」などが実証実験を始めている。
<高速車載LAN>
車両内の高速通信ネットワークのこと。車両制御の高度化や周辺監視カメラの搭載数の増加、高解像度の映像表示など、高速かつ高信頼性の通信ネットワークが自動車分野でも求められている。
<CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)>
炭素繊維強化樹脂のこと。強度に優れ、鉄やアルミニウム合金などの金属に比べて、強度や剛性を同等にしても軽量化できることから、ゴルフクラブや釣り竿、航空宇宙の分野で利用されている。
3.医療
★ ロボット手術、脳血管内治療、癌ワクチン、再生医療、遺伝子診断、分子標的薬、3D画像診断、介護ロボット、遠隔画像診断、分子イメージング
<分子イメージング>
病気の原因と考えられる臓器内の分子レベルの異常を、高度画像診断装置と診断用薬を使って体を傷つけることなく見つける技術。癌の早期発見に威力を発揮するPET検査はその一例。認知症や動脈硬化の早期診断にもこの技術が応用され始めている。
<3D画像診断>
CTやMRIの画像から、患者ごとに臓器の3D(3次元)画像を構築し、診断に使う技術。切除領域の容積や骨の構造、血管、腫瘍の立体的な位置が把握できるため、手術前のシミュレーションが容易になる。主に肝切除、骨関節疾患の手術などで活用されている。
4.エネルギー
★ EMS(Energy Management System)、地熱発電、エネルギーハーベスティング、V2G(V2H)、次世代型ヒートポンプ、スマートメーター、太陽光発電、トリジェネレーション、蓄電システム、洋上風力発電
<トリジェネレーション>
コージェネレーションが熱と電気の2つを利用するのに対し、熱と電気だけでなく、発電機などで発生する二酸化炭素(CO2)を加えた3つを利用することを指す造語。植物工場や温室栽培などで、温度維持に熱を、照明などに電気を、植物育成にCO2を利用する取り組みが始まっている。
<エネルギーハーベスティング>
熱や振動、光、電磁波などの小さなエネルギーを電力に変換しり技術のこと。「環境発電」とも呼ぶ。同技術を用いた機器は、電池の交換や機器の点検、保守をほぼ不要にできることから、「電池レススイッチ」や無線センサーネットワークなどへの適用が広がりつつある。
5.建設
★ 減容(放射性物質除去)、ハイブリッド外装システム、超高強度コンクリート、減築(既存建物の揺れ対策)、地盤免震(ゼリー免震)、生物多用性評価、植物工場、有機EL照明、耐火集成材、デジタルサイネージ
<減築(既存建物の揺れ対策)>
既存建物の荷重を減らすことで耐震性能を高める手法。上層階の撤去が効果的だ。維持管理の手間低減やバリアフリー化にも寄与する。少子化による生徒減少や自治体の財政難を踏まえ、既に一部の学校では上層階を撤去して耐震性能を高める改修を選択し始めている。
<地盤免震(ゼリー免震)>
街区単位で地盤の免震性能を確保するアイデア。大林組は2010年、500m四方の敷地の外周に幅5m、深さ100mの切り込みを入れることで、地盤の固有周期を人工的に長くする「ゼリー免震」構想を発表。実現するには土地所有権の調整など社会面、制度面のハードルが残る。