F&Aレポート
禅が教えてくれる 美しい人をつくる「所作」の基本 2 呼吸を整える強さと美しさ/呼吸と所作を整えてから心を整える
■僭越ながら、筆者の「話し方教室」では毎回必ず、全員で深呼吸をすることからスタートする。この深呼吸にはルールがある。まずは、しっかり吐き切ること。口から細く長く息を吐く。次に、鼻から息をゆっくり吸う。このとき胸ではなく腹の底に息を溜める。横隔膜を下げ、吸った息を下腹部に落とす。目を閉じてゆったりと呼吸をすることだけに集中すること約5分。
■この5分が、その後の集中力をつくる。深い呼吸をすることで、仕事や家庭の気になる事柄や、イライラ・ザワザワした気持ちを静めてくれる。深呼吸の時間が終わると、受講生たちは、一様にすっきりした顔をしている。教室の空気も変わったように感じる。
■平時から深い呼吸の仕方が身に付いていれば、緊張してあがったときも、心をリセットすることができると思い、興味本位で始めた「深呼吸」であるが、あとになって、この深い呼吸が美しい所作の根源であるとともに、心を整える効果があるという禅の教えと共通していることを知った。前回に続き、「禅が教えてくる 美しい人をつくる"所作"の基本」(枡野俊明著 幻冬舎)から特集する。
1.二人が同じ実力であれば、呼吸が整っているほうが勝つ
こんなデータがある。呼吸を整えると全身の血流が25?28%アップする。逆に呼吸が乱れていると、体も心も硬くなって血管も収縮するため、血流は15%程減るという。呼吸の仕方が違うだけで、差し引き40%、あるいはそれ以上、血のめぐりが違ってくるのだ。
脳に酸素と栄養を運ぶのは血液なので、血流の違いによってその活動も違ってくる。それを実証しているのが、小学生を対象にしたある実験である。呼吸を整える前と後とで、簡単な計算問題をさせたところ、呼吸を整えた後のほうが、正解率が二割程度上がったというのである。
呼吸が整って気持ちが落ち着き、集中力や判断力も高まり、そうした結果になったということと考えられるが、呼吸によってセロトニンなど脳の神経伝達物質の分泌が高まり、アルファ波も大量に出ることが科学的に確かめられている。
スポーツもビジネスも結果が、呼吸に左右されることがある。時間ギリギリに到着して荒い呼吸で打ち合わせをする人と、余裕で到着して準備ができている人では、初めから勝負は見えている。打ち合わせをリードするのは、当然、呼吸を整えた人であろう。荒い呼吸のままでは、失地回復を図ろうとしても、混乱した頭ではいい方策も浮かばず呼吸はますます乱れてくるのは必至である。
たとえ、両者が互角の力量でも、この場面では大きく差がついてしまう、いわゆる"相手に完全に呑まれた"状況になるのだ。
2.腹式呼吸が楽にできる姿勢が、いい姿勢
姿勢が整っているかどうかは呼吸でわかる。姿勢と呼吸は一体。正しい呼吸、つまり腹式呼吸ができる姿勢なら、整ったいい姿勢といえる。ためしに、体をかがめてお腹で呼吸をしてみてほしい。この姿勢では絶対に腹式呼吸はできないはずである。
座禅では、正しく呼吸をするために、まず姿勢を整える。座ったら、左右揺振(さゆうようしん)といって、体を左右に揺らし、しっかり背筋が伸びているか、左右のどちらかに体が傾いていないかを確認する。いい呼吸をするためには、それほど姿勢が重要なのだ。
朝、家を出る前に必ず姿勢のチェックをする習慣をつけるといい。それが姿勢に対する意識を高めることになるし、自分に合った良い姿勢を体に憶えさせる早道だからである。いい姿勢で深い呼吸ができるようになると、どこでも立ったままで気持ちを静めたり、切り替えたり、あるいは集中力を高めたりすることが可能になる。これを「立禅」と言うが、休み時間でも、電車に乗っているときでも、いつでもどこでもできる訓練である。いわばこれは、禅を日常に活かす方法でもあり、リフレッシュ効果は抜群なのだ。